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---目が覚めると、そこは見知った場所だった。
この舟で、私に与えられた部屋。
広くはないが、もともと客室だった為か間取りの良い和室で、畳も未だ傷んでいない。
この部屋を宛がってくれたのは、気遣いからなのか、単純に空いているのがここしかなかったからなのか。
どちらにせよ、私の一番落ち着く場所には変わり無い。
「……っ、」
起き上がろうとしたが、身体に思うように力が入らなかった。
起き上がるのは後にして、体を横たえたまま頭を傾け、窓際を見遣る。
私が寝ている蒲団からやや離れたそこには、片膝を立てて壁に寄り掛かり、空を見上げる高杉の姿があった。
---ついていてくれたのだろうか。
稀有な事だと思いながらも、私は、それがごく自然な事のようにも感じられた。
私の位置から見える高杉は、ほぼ後姿。
わずかに左半身がこちらを向いているけれど、包帯の巻かれたそこから彼の表情を読み取る事はできない。
---もとより、豊かに表情を変える人ではないが。
けれど、高杉の後姿を見ると、私は泣きそうになる。
こんなにも愁えて見えるのは何故なのだろう。
切なくて、苦しくて。
「…高杉。」
涙が零れる前に、私は彼に呼びかけた。
彼はゆっくり振り返る。
「---悪運が強ェな、おめェも。」
私が目を覚ました事を喜ぶでもなく、高杉は喉でククッ…と嘲笑った。
「…それはどうも。あんたのお蔭でね。」
お返しに、私もぶっきらぼうに言い放つ。
高杉はそんなささやかな私の抵抗など意にも介さない様子で、私の枕元までやって来ると、そこに腰を降ろして胡座をかいた。
「あんたが手当してくれたんでしょ?」
訊ねるが、高杉は目も合わせずに口を開く。
「知らねェな。」
この男は、本当に素直でない。
「ありがと。」
「……………。」
高杉の眉がぴくりと動く。
私の返答が気に入らないなどと思っているのだろう。
しかし、しらばっくれても無駄だ。
あの場で、私が負った傷の応急処置ができるのは高杉しかいないのだから。
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