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【11.失望】
「告白しただァ!?」
俺は口に含みかけた苺牛乳を吹き出しそうになった。
それを何とか回避して、改めてその驚愕の創造者に向き直る。
「マジでか!
さくらお前、マジで告白したのか、あいつに!?」
「先生、声大きいってば!」
詰め寄る俺に身を屈めながら、さくらは口許で人差し指を立てた。
「あ、あぁ、悪ィ悪ィ…。」
国語準備室には俺とさくらの二人しかいないが、衝撃の事実に周りを気にすることも忘れてしまった。
どう頑張ってもストレートにならない自分の髪を撫で付けながら、椅子に座り直してさくらを見る。
「…で。
本当に高杉に告白したのか。」
「うん。」
さくらは頷いた。
告白。
高校生の女の子にとって、かなり勇気のいる重大事項だと思うのだが。
さくらがそれをやってのけたと聴けば、これが驚かずにいられるかって。
かつ、大それたことをしでかした割りにはさくらは落ち着いた様子で、それについても驚いた。
夏休み最後の週。
俺は新学期の準備で出勤してきたわけだが、偶然、図書室に本を返しに来たさくらと実に数週間ぶりに会った。
夏休み中もなるべくさくらのことは気にかけていたかったが、俺も3Zのガキ共との合宿やら何やら、修理から戻って来た車は調子悪いわ俺のマンションのエアコンは温風しか吐かねーわ、まぁだいたい愚痴になるので割愛するが、とにかく何やかんやでなかなかさくらに会うことができなかった。
心配していたのだが、久しぶりにこうして顔を合わせた彼女は、思いの外元気でいい表情をしていた。
しかも、聴けば高杉に告白したなんてビッグニュースを抱えていて。
…これは、もしかすっとうまく行ったんじゃねーか?
さくらの表情を見れば、そんな気がしてならないわけだが。
一応事の始終は聴いておかねーと、と俺は目の前に椅子を引っ張って来て、彼女に座るように促した。
「…そんで、どうだったんだ?
お前のそのツラからすっと、結果は聴かなくてもいいような気がするけどよ。」
からかうようにニヤと笑ってやれば、
「うん、まぁ、とりあえず銀八先生にだけは聴いてもらいたくて。」
へへ、とさくらは照れくさそうに笑った。
「そうかそうか。
んじゃ、ま、どーなってそーなったか、せっかくだし先生にも話してもらいましょーか?」
こうして恋の話をし、表情をころころ変える彼女を、純粋にかわいいと思った。
これが、さくらのさくららしい姿のはずだ。
幸せになって欲しい。
高杉も、さくらも。
「…うーんと、どこから話せばいいかな。」
さくらは、その時を思い出すように、天井を見上げて語り出した。
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