忘れられない瞳1


【1.忘れられない瞳】




春。

桜の並木道。

薄桃色の花びら、ひらひらと。


舞い散る桜の花びらを掴む事ができたら、願いが叶うとか叶わないとか。

そんなくだらない事、一体誰が考えたのだろう。


この桜並木は、銀魂高校への通学路。

あたしは、今の季節に、この道を行くのが好きだ。

ただ、皆と同じ登校時間に、ワイワイと行くのは嫌い。

この舞い散る桜の木の下を、独りきりで、ゆっくりと、ゆっくりと。


あたしは、独りで居たいんだ。



びゅう、と春の風が横から吹きつけた。

花吹雪が舞う。

あたしは反射的に目を閉じて身をすくませた。

風が通り過ぎる。

微かに、桜の花の匂いがした。


瞳を開ける。



はらはらと舞い散る花びらの先に、その人はいた。



路肩に停めた黒のBMW7シリーズ。

運転席側のドアに背中を預けて、ただ、空を見つめている。

深い蒼にも見えそうな短い黒髪が、風になびいた。

痩せた体に纏うのは、3つボタンをはずした薄青色のワイシャツ、ゆるめたネクタイ、グレーのスーツ。


どこか愁いて見える横顔。


眼帯に隠れて伺えない瞳。



…誰だろう。




無意識に、あたしは立ち止まって、じっと目の前のその人を見つめていた。




「……。」

あたしの視線に気がついたのか、その人がゆっくりとこちらを向く。




あたしは、目を奪われた。

その人の何に?

その人のどこに?


わからないけれど。



ただ、碧色の隻眼は、どこまでも深く深く、悲しい色をしているように見えた。




それが、あたしたちの始まり。




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