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例えば、カリスマ。


高杉先生には本当にそんな言葉が似合うと思った。


先生が姿を現した瞬間、教室の空気が変わった。


先生が教卓前に立っただけで、生徒の誰もが吸い寄せられるように前に向き直り、姿勢を正す。


普通なら、女子生徒にもてはやされる男性教師に反抗する男子生徒もいるだろうに、彼らもおとなしく席についている。



---高杉先生には、人を惹き付け、納得させてしまうようなオーラがある。



「あー、銀八は所用で遅れる。
出席は俺が取ってやるが、後はてめーら自習してろ。」


生徒が静まったのを確認し、高杉先生は名簿を開いて淡々と生徒の名を読み上げ始めた。


「高杉先生ー!」


一人の男子生徒が、名前を呼ばれた後に手を挙げた。


「なんだ。」


高杉先生は名簿に落とした視線はそのままに返事をする。


「オリエンテーション、高杉先生が代わりにしてくれるんじゃないんですか?」


「するはずねーだろ、そんなめんどくせぇ事。」


教職者らしからぬ回答に、生徒たちが笑い半分吹き出した。


「高杉先生〜!」


今度は別の女子生徒が手を挙げる。


「なんだ。」


「先生の若い頃の話が聴きたいでーす!不良時代の武勇伝とか!」


「不良?おとなしくて優秀な生徒だったに決まってんだろ。以上。」


しれっと言い放たれた全く信憑性のない回答に、再度教室中に笑いが広がる。


生徒と一緒になって笑い合うわけでもないのに先生はその空気の真ん中にいて、そして笑い声の中で淡々と生徒の名前を読み上げて行くその声は、不思議に凛と響いて誰も聴き逃すことなく返事をしている。


あたしは、高杉先生が作り出すその教室の雰囲気を感じ取ることにずっと意識を傾け続けた。


銀八先生とはまったく違うタイプなのに、銀八先生が生徒に慕われているように、高杉先生も高杉先生らしさでもって生徒に慕われている。


これが、生徒の前での高杉先生。


無愛想なところも、皮肉っぽい笑みも、居丈高な物言いも。


あたしと居るときと大して変わらないのに、何故だかすごく新鮮で。


いいなぁ、先生のこういう姿を見てるのも。


自然と頬が緩んでくる。


あ、先生今ちょっと微笑った。


少し困ったような、呆れたような、そんな顔して微笑むの。


あたしの大好きな表情。


あぁ、好きだと何でもかっこよく見えちゃうな。







…千載、



…ん?



「千載。」


「は、はいっ!?」



突然、名前を呼ばれて慌てて顔を上げた。


…というか、先生の点呼の声を聞き漏らしてて、慌てて返事をした。


何をぼーっとしてやがると言いたげに、先生は今度こそ呆れた顔をして、見えないようにため息をついていた。



違うの、先生、見惚れていたんです…。
あぁ、失敗…。






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