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保健室。
窓ガラスの向こうに見える景色は、燦々と降り注ぐ陽射しに外気が上昇し続けていることを無言で伝えて来る。
だが外とはうって変わって、ここは適度な涼しさを保ち、至って快適な空間となっていた。
暑さにうだることもなく仕事をこなせるお陰で、修学旅行中に溜まった仕事の処理も効率よく進んだ。
やるべき事はあらかた終わらせ、デスクの上のパソコンを閉じた俺は、椅子の背に深く凭れた。
---コンコン、
漸く一服、と煙草を取り出したところで、扉がノックされる。
「---高杉、いるか?入るぞー。」
その聞き慣れた声に嘆息して、煙草を一本、噛んでくわえた。
「何の用だ。」
了承する前に、ペタペタとサンダルの足音をさせながら入って来た不躾な来訪者を一瞥する。
「そんな露骨に嫌そうな顔しなくてもいーでしょーよ。」
さして気にもしてない様子で言って、その来訪者は、デスクに近いベッドにどっかりと腰を下ろした。
「ここ、ほんと涼しくて極楽だよな。ずりーよなぁ、お前ばっか。あのバカ校長、俺んとこにもエアコンつけてくんねーかな。」
その来訪者---銀八は、数個ボタンを外した襟に指を突っ込み、ワイシャツをパタパタさせて冷気を取り込む。
「タバコ吸っていい?」
「勝手に吸えよ。」
「置いて来ちまったから一本くれ。」
「甘えんな。」
「んだよ、冷てーなー。」
ケチだの何だのとブツブツ不満をこぼしながら銀八は、やる気のない視線を窓の外に向けた。
グラウンドでは野球部が練習をしている。
暑そーだなー、あいつら元気だなー。
そんな、会話にもならない事を独りごちながら、このくるくる天然パーマはベッドから動く気配を見せない。
なんとなく、予想はついた。
こいつが用もなくここまで来る事はない。
何か真剣な話をしようとするとき、決まってこいつは、こうやってさも用事がないような素振りをする。
バレバレだ、馬鹿。
そして、この馬鹿が俺に何を話しに来たのかもだいたい予想がついた。
さっさと問えばいい。
だが、生憎、俺もはっきりとした答えをくれてやれるか分からないけどな。
「……。」
「…銀八。」
銀八がなかなか切り出さない事が多少なりとも苛立たしく感じられ、俺は自ら口を開いた。
「…めんどくせーな、てめーはよ。言いたい事があんだろ。さっさと言いやがれ。」
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