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「…わざと神楽たちの部屋に行かせただろ。」
ガキ共と腕を組んでエレベーターへ向かうさくらの後ろ姿を見送っていると、銀八がタバコを口にくわえながら隣に立った。
「あいつには友達と過ごす時間も必要だろ。」
銀八のタバコを奪って、それに火をつけながら答える。
「ま、俺ァ添い寝でもよかったんだがな。」
「いやいやいや。それは俺も止めるわ。」
「冗談だ。あいつに部屋貸して、俺はてめーのベッドで寝ようと思ってたから丁度いい。」
「はァ!?何が悲しくて野郎と同じ布団で寝なきゃなんねーんだよ!」
「誰が一緒に寝て下さいなんてお願いしたよ、このバカ天パ。脳ミソまで爆発したかァ?てめーが床で寝るに決まってんだろ。」
「オィィィ!何このコ!ほんっと性格ひんまがってやがんな!おめーが床で寝ろ!」
言いながら、タバコを奪い返そうとする銀八の腕をするりと交わす。
「結果そうならなかったんだから構わやしねェだろ。」
肺から煙を吐きながら、銀八に背を向けた。
すると、渋々新しいタバコを取り出してくわえた銀八にすかさず呼び止められる。
「おい、待て、高杉。」
「なんだよ。まだ何かあんのか。」
さくらに荷物を渡す為、一旦部屋に戻らなければならない。
銀八の弛い調子につきあっている暇はない、とため息混じりに振り向けば。
「…どうして、あいつをつれて来た?」
こちらを真っ直ぐに見据える赤銅色の瞳に、それ以上の歩みを阻まれた。
落ち着き払ったその低い声で冷静に問うその様は、やつが真剣に訊ねている証拠。
「…理由なんざ無ェよ。俺の気まぐれだ。」
銀八の視線から顔を背けつつ、答えた。
嘘ではない。
だが、本心かと言ったら、そうとも言えない気もした。
---あぁ、そういや、俺ァ何故あいつを連れて来ようと思い立った?
「…気まぐれ、ねぇ。」
どこか含みのある物言いをして、銀八は瞳を伏せた。
「……ま、いいわ。
お前が何考えてっかなんて、俺も昔っから解らねぇしな。」
すぐに顔を上げて薄く笑った奴の顔は、普段の弛い表情に戻っていた。
「…フン。じゃァな。」
再び、銀八に背を向ける。
その一瞬、視界の端に映ったのは、ぼんやり虚空を見て煙を吐いている奴の姿だったが、内心俺は、多分奴は何かしら俺の胸中を見透かしているのだろうと、そう思った。
長い付き合いだ。
銀八がどんな奴かは、嫌という程わかっている。
人の心を見透かすのが得意で、洞察力に長けて、とんでもなくお節介。
なァ、銀八。
俺ァあの頃から変われたと思うか。
俺ァ前に進めているか。
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