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【8.この足で、まっすぐに】
「先生、携帯光ってます。」
「あ?誰だ?」
「…メール…、銀八先生ですよ。」
「放っとけ。」
ホテルに戻る車の中。
銀八からのメールにさくらが気づいたこの時、とりあえず読んでおきゃあよかったと後になって後悔した。
まぁ、後の祭りだ。
奴からのメールの内容は、こうだ。
『ガキ共に見つかるから、今は戻って来んなよ』
「…遅ェよ、連絡が。」
「いや、俺はちゃんと事前に連絡してやったからね?おめーが見てないだけだからね。」
半眼になって呻く俺に銀八は、苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
「なんでさくらがここにいるアルか?」
「来るなら言ってくれればよかったじゃない。でも嬉しいわ、さくらちゃんとここで会えて。」
さくらの周りを、3Zの女生徒共が取り囲む。
こいつら、ロビーに銀八がいるのを見つけて、やれ何してるだ何だと、そのまま居座っていたらしい。
俺の後ろにいたさくらの姿を見つけるや否や、嬉しそうにさくらに駆け寄って来た。
なンだ、けっこう慕われてんじゃねーか。
不思議と安心する自分がいて、何だか保護者みてェだと内心苦笑する。
銀八の担任する3Zのガキ共は灰汁が濃くてやかましいが、コイツらのいいところは、素直で純粋なところだ。
肝心のさくらはと言うと、嬉しいのか戸惑っているのかよくわからない曖昧な表情で、だが一応は笑みを返している。
ダイレクトに自分に好意を寄せられる事に慣れてねェんだな。
「それで、さくらの部屋は何号室アルか?」
「えっ…。」
何の計らいもなく発せられたチャイナ娘の問に、さくらが固まった。
話していいものなのかと、当惑を色濃く映した瞳で俺に視線を投げて来る。
そんなさくらの様子に気づいた銀八も、おもむろに俺を見て来た。
「こいつは俺が連れて来たんだ。俺と同じ部屋で寝るに決まってンだろ。」
俺は平然と言い放ち、わざと同意を求めるようにさくらを見る。
すれば、さくらは目を丸くして顔を赤らめた。
「ちょっ!先生、それは…!」
「だめよ、そんな破廉恥な事!」
「そうアル!こんなスケコマシにさくらを預けられないアル!」
すかさずガキ共から上がる抗議の声。
「…おい、誰に対して物言ってンだおめーら。」
相変わらず躾のなってないガキ共だ。
僅かにこめかみがひくつくのを自覚しつつ、ガキ共の言葉に吹き出した銀八を睨み付ける。
「そうだ、さくらちゃん私たちの部屋においでなさいな。」
「いい考えアル、アネゴ!ワタシさくらと一緒に寝たいヨ!」
俺の凄みをもろともせず、ガキ共は、名案をひらめいたとばかりに嬉々としてさくらの手を取った。
「…先生…、」
どうすれば、とでも言いたげにさくらがこちらを見る。
「…あァ、だったら行ってくりゃいい。」
「!本当ですか?」
「あァ。バレちまったならこいつらに隠す必要はねぇからな。女共で積もる話もあんだろ。とりあえず荷物だけ取りに来いや。」
言ってやれば、さくらは顔を綻ばせて、はい、と頷いた。
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