【7.厚意の境界】


銀八先生からの電話を受け、高杉先生とあたしは早々と宿泊地を訪れた。


皆の泊まるホテルは、繁華街から少し離れた場所にあって、たかだか公立高校の修学旅行だというのにその外観は著名な国際ホテルとさほど変わらないほどに立派だった。


地下駐車場に下りる傍ら、その豪華さに思わず唸ると先生は、自分が子供の頃の修学旅行とはえらい違いだ、と苦笑いをしていた。



「おら、荷物持って降りろ。とりあえずチェックイン済ますぜ。」

「はい。」


足元に置いていた、宿泊用の荷物を詰めたボストンバックを持って降りる。


3年生は二泊三日だけど、あたしは一泊二日だから、大した荷物ではない。


意外な事に、先生の方が大荷物だった。


「何が入っているんですか?」


「応急措置用の道具一式と、あとは仕事の残りだな。」


めんどくせェ、なんてぼやきつつ、先生はその重そうな鞄を軽々と持ち上げる。


「行くぞ。」


歩み出すその瞬間に、あたしの手の荷物が急に軽くなった。


ごく自然な動作で荷物を代わりに持ってくれ、先に歩いて行く先生。


二つの荷物を持つ後ろ姿。


スーツ越しでもわかる、きれいな躰のライン。


華奢なのに逞しいと思えてしまうから不思議。


「おら、置いてくぞ。」


早く来い、と先生が振り返る。


「は、はい…!」


その後ろ姿に見とれていたあたしは、急いであとを追った。
















「銀魂高校の高杉様ですね、お部屋は---」


フロントで受付を済ます先生の一歩後ろから、その姿を見つめる。

なんだか、学校行事じゃなくて、あたし達だけでチェックインしてるみたいな気分だ。


いちいち想像で舞い上がれるんだから、あたしもつくづく単純でめでたいと思う。


「お部屋、どこでした?」


「2階、170号室。」


生徒は3階から上の階、教師は2階と部屋割りがされているようだった。


エレベーターに乗ったのはあたしと先生の二人きりで、実は物凄く緊張したが、そう思ってる間に2階に着いた。


適度にふかふかする絨毯の廊下を歩いて、部屋に向かう。


壁にはかわいらしいランプがついていて、仄暗い廊下を淡いオレンジ色に照らしている。


まだ時間も早いせいか、誰とすれ違うでもなく、ホテルの前の道路を行き交う車の走る音だけが微かに聞こえた。


「俺らだけで泊まりに来たみてェだな。」


「!そうですね…!」


何とはなしに先生の言った一言は、あたしが胸中で思っていた事と同じ。


なんだか嬉しい。



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