素直に、 1
【4.素直に、】
「…37度7分…。」
あたしは体温計に表示された数字にげんなりしながら、電源を押してその表示を消した。
布団の中でもぞもぞと体温計をケースにしまい、枕元に置く。
寝返りをうち、右向きの体制に変えた。
居間でつけっ放しにしているテレビは昼下がりのワイドショーを映し出し、司会者の能天気な声が聞こえて来る。
ここからは全く見えないけれど、音が無いのが嫌でつけているに過ぎないので問題無い。
……だるい。
濡れて帰ったその夜、あたしは熱を出した。
案の定といえば、そうなのかもしれない。
あたしに抵抗力というものは、ほとほと無いらしい。
学校も欠席して3日になる。
3日も寝込んでいると、いよいよ世界でひとりぼっちのような気持ちになってくる。
熱が出て苦しいと、どうしようもなく弱気になる。
おばあちゃんが恋しくて悲しくなった。
あぁ、でも、おばあちゃんこそ、あの真っ暗な病室でひとりぼっちで心細いはずだ。
あたしがお見舞いに行かなきゃいけないのに。
………ピンポーン…、
呼び鈴が鳴った。
誰か来た。
また、新聞の勧誘か、MHKの料金回収かそこらへんだろう。
…ピンポーン、ピンポーン、
(…うるさいなぁ、)
呼び鈴の音から逃れるように、頭から布団を被った。
相手をする元気はない。
放っておけば、そのうち諦めるはずだ。
無視を決め込む。
…………。
静かになった。
また、テレビの音だけが居間から聞こえる。
あたしは布団を少しだけ捲って、そろりと頭を出した。
壁には、高杉先生の上着が掛かっている。
結局クリーニングにも出せず、借りた時のままだ。
(……。)
淋しさと孤独が波のように寄せては返す。
---眠ろう。
眠ってしまえば時間は過ぎる。
あたしは瞳を閉じた。
「…おい、」
…………?
声がした。
「無用心だろが。」
「!?」
はっと瞳を開く。
寝たまま首を捻って声のした方を見----、
「た、高杉っ、先…!?」
そこに居るその人に、驚愕のあまり言葉を失った。
「鍵くらい閉めとけや。何かあったらどうすんだ。」
口をぱくぱくとしているあたしを見下ろして、高杉先生は低い声でそう言った。
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