自己嫌悪の狭間 1
【2.自己嫌悪の狭間】
6月。
桜の花はあっという間に新緑の緑に色を変えた。
梅雨入り宣言こそまだだが、雨が降る日が増えて来たように思う。
あたしはというと、4月の始業式以来、体調不良と気分的な理由で、結局ろくに学校に通っていなかった。
だが、中間テストの時期も近くなり、さすがにこれ以上ダブるわけにも行かない。
なので、暗鬱な気持ちを抱えながらも、今日は渋々登校して来た。
登校して早々、あたしは教室ではなく国語準備室に向かった。
銀八先生のいるそこが、あたしが唯一この学校で落ち着ける場所。
「おー、さくらか。」
国語準備室の扉を開けると、机に向かっていた銀八先生が体を捩ってあたしを振り返った。
「なかなか来れなかったか?」
イチゴ牛乳の入ったマグカップを片手に、気遣うようにあたしの顔を見上げてくる。
「…うん、なんか来れなくて、」
「…そ、か。気持ちがついて来ねー時もあんだろーが、体調いい時はちゃんと来いよ?休んじまうと、余計に来れなくなっちまったりするもんだ。
先生もさくらが来ねーと淋しくて泣いちゃうぞー?」
俯いたあたしに、先生は冗談ぽく笑う。
元気づけようしてくれてるんだ。
「…うん、そうだよね、ありがとう。」
あたしは笑ってみせる。
先生の言う事もよくわかる。その通りだ。
それに、先生の気持ちはすごくありがたい。
でも、なんでなんだろう、気持ちがどうしてもついて来ない時がある。
あたしの笑顔が不自然だったのか、先生は少し苦しげに微笑んで、立ち上がった。
「さ、鐘鳴るぜ。行くか。」
ぽんぽん、と励ますようにあたしの頭を叩く。
「…うん、」
あたしと先生は国語準備室を後にした。
三年生の教室は3階、2年は2階。
廊下から階段の踊場に着いて、銀八先生はあたしを見る。
「…じゃあ、また後でな。」
「うん。」
「…あのよ、知らねーと思うけど、ウチのクラスのガキ共、さくらに会いに行くってちょくちょくお前のクラス覗いてんだぜ?」
「そうなの?」
「あいつらみんな、お前のこと大事な仲間だって思ってっからよ。」
だから今日は帰るなよ、と先生は微笑んで、階段を昇って行った。
あたしは恵まれてる。
いい先生、思ってくれるかつてのクラスメイト。
それなのに、どうしてこんなに孤独な気持ちになるんだろう。
この気持ちが、あたしに壁を作らせて、あたしはまた閉じこもってしまう。
------ふと、思い出す。
そんな、同じ想いを抱えている瞳を、この学校で見た。
銀魂高校の保健医で。
そう、確か…高杉先生といった。
もう一度会ったら少し話をしてみたい、そう、ぼんやりと思った。
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