かわいそうだ、不憫だ。
そんな言葉は、もう聞き飽きた。
良く頑張ってね、きっといいことがあるよ。
そんな嘘、反吐が出るぜ。
「おい、ブス! てめーがいくらがんばっても、どうにもならないことってのがあんだよ!」
手を振り払ったあたしに、お前が見せたのは驚いた顔。
「アハハハハ! 絶望しろ!」
憐れみなんていらない。
その代わり、あたしのことなんか忘れちまいな。二度と、思い出せないくらいに。
あたしが産まれたのは六家。
それは、ラ・シュガルでは誉れ高き名家。
だからこそ、母親が低い身分の出身であるあたしは、疎まれて育った。
何のことはない。
子供心に、父親に好かれようと努力したのに、それが叶わないことに気付いたのが遅かっただけ。
どんなに努力したって、あの家に、あたしの居場所はない。
だから、火をつけて、逃げた。トラヴィス家から。居場所のない世界から。
「ナディアさま…」
「何だよ…」
けど、プランだけは、ずっと、あの家から逃げ出した後もついてきてくれた。
あたしは、もう、お嬢様じゃないのに。
いや、元々、お嬢様にすらなれなかったのに。
それでも、こいつだけは、あたしを見守っていてくれたんだ。
「いえ、何でもありません。お気をつけて」
プランが、あたしのことを心配しているのはわかってた。
それでも、あたしは、ガイアス様の恩義に報いたい。それが、生まれ故郷のラ・シュガルを滅ぼす結果になったって構やしねぇ。
今生きてるのは、あたしが、あたしの思う通りに生きられる道。
報われない努力なんてしなくたっていい。ただ、あたしは、自分の為だけに生きている。
「いつも、ありがとな。こいつのこと、頼んだよ」
けどさ、プランの前では、まだ純粋だった頃の“ナディア”でいられるんだ、ほんの少しだけ。
だから、笑って、部屋を出る。
これから先、あたしがどうなるかなんてわからない。けど、大事なものは、守りたいから。
「さぁて、一仕事いきますか」
無影のアグリアとして、あたしは戦線に立つ。
あたしにできる、全てで。
「アグ…リア! 今、助ける!」
岩場が崩れて、落ちそうになったあたしを、しっかり掴んだ手。
プランと一緒にいた時、出会ったお人好し。
どこまでもバカで、さっきまで戦ってたって言うのに、必死になってあたしを助けようとしてる。
きっと、こういうバカは、死んでも治らねぇんだ。努力で全てが叶うと信じている、大馬鹿野郎。
けど、そういう思想が、自分を傷つけていくんだ。そんなこと、知りもしねぇくせに、いい子ぶりやがって。
だから、あたしは……。
「おい、ブス!」
いつも通りのあたし。
浴びせた罵詈雑言に、振り払った手に、驚くあいつの顔を見ながら、あたしは落ちていく。
お前は、バカの一つ覚えみてぇに、努力で何でも解決してみろよ。
地獄で見ててやるぜ。
なぁ、レイア…。