情事にひそむ | ナノ

郭の蝶蝶の企画提出作品。
用心棒静雄×男娼臨也。

*

妖艶な、白い肌を舐めるように見詰めればその肌の主は嬉しそうに喉を鳴らした。それが合図のように男が臨也の着物に手を掛けて首もとに赤い花びらを唇で散らした。それに臨也はくつくつと笑い声を抑えながら男の背中に手を回した。その手に力が入る事なく押し倒され、汚されていく。綺麗で痛みを知らない無垢な少女のような肌は男を惑わせ、満たし、虜にして行く。
そうして臨也に取り付き、金を吸い取られて骸のようになって行く男達を幾度となく見て来た。故に、臨也は愛されるだけ憎まれた。いや、憎まれる方が多いかも知れない。それでも、臨也は今日も身体を売るのだ。金に困っている訳でも、欲に溺れている訳でもなく、純粋に単純に人間が好きだから。特に欲に溺れる男共が好きだから、らしい。
これは臨也が云った事で、他人から見たらどう見ても性欲を持て余しているようにしか見えない。だけど、そう云った時の嬉しそうな笑みは初めて見た本当の臨也の笑みだと感じた。


長い情事も終わり、客はまた来ると臨也に接吻を一つかまして床を後にした。頃合いを見計らって部屋に入ると未だ全裸の臨也が床に散らばる着物やそれに掛かる精液や汗を眺めていた。
かたん、と音を立てて閉まる襖の音に漸く臨也が此方を向いてまだ妖艶さの残る笑みを浮かべた。

「あら、シズちゃん。今日も後始末やってくれる?」

「………ああ、」

中出しされたの、気持ち悪い。と瞳を揺らす臨也に近付く。ぎし、と歩く度に軋む畳に目眩を起こした。

初め、俺は臨也の用心棒として雇われた。憎まれる事の多い臨也だ。その分命を狙われる事も勿論多い。それでも人気の一番高い臨也を手放す事が出来ずに、店の主人が雇ったのだ。臨也を最初に見た時は驚いた。透き通る位に綺麗な白い肌に整った顔、深い黒髪に珍しい赤い瞳、そしてふっくらとして抱きやすそうな身体。全てが全て美しく、抱く男達の気持ちが分かる気がした。しかし、暫く臨也に仕えていると憎まれる意味も理解出来た。
臨也は、抱かれた男自身を愛しているのではなく、抱かれた時の欲に満ちた男が好きなのだ。その証拠に金がなくなり、自分を抱く事の出来なくなった男には見向きもしなかった。名前すらも忘れる彼は、思わず人間性を疑う程に冷血で非道だった。
だから、俺はコイツを愛する事なんて出来ないと思っていた。のに。


「ん……有難う、」

「おう」

臨也の中に入っていた液を全て掻き出すと、臨也は満足そうに笑って礼を云った。俺が簡素に答えると臨也がにやり、と笑って俺に向けて身体を開いた。

「じゃ、やろうか。シズちゃん」

「………」

何時からだろうか。臨也は客との事後に必ず俺を求めて来るようになった。初めは拒んでいたが、しつこい臨也に今は半ば諦めで臨也を抱いていた。客が臨也を抱くように柔らかく優しいものではなく、血が出る程の荒々しいやり方で俺は臨也を抱く。故意にそうしてる訳ではない。それしかやり方を知らないのだ。
どんなにつらそうな行為でも、臨也は決まって生理的な涙を零しながら嫌みに笑って云う。

「シズちゃ、ん…っすきだよ」

客との行為とは唯一違う、告白。それにどんな意味があるかなんて知らないし、知りたくもない。情事にひそむ自分の気持ちに気付かない不利をして、今日も臨也にキスをした。






…なんか久々に遊郭ネタ書いたよ!遊郭ネタは素晴らしいです。大好きです。機会があったらまた書きたいな。
100813

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