small&Starlightサンプル | ナノ

 【サンプル】*本編は縦書きとなります。


「え、ちょっ……近い」
「なぁお嬢、なんならこれから二人きりで話でも愚痴でも聞いてやろうか……」
「は?」
唐突に流れを変えた展開に全く頭がついていかない。
さっきまでとは違う彼の怪しげな声色とか、ありえない近さとか……そんな状況を飲み込みきる前に、大好きな声が私の耳に届いた。
「僕の恋人にちょっかい出すのはやめてほしいな」
「っ!」
強く肩を引かれて倒れそうになった私の体を、あたたかい央の胸が受け止める。
思わず硬直してしまった私を安心させるように、彼はふわりと腕を撫でた。
「あーあ、邪魔が入っちまったな、お嬢」
「よく言うよ、ばっちり僕と目が合ってたでしょ……」
はぁ、と大袈裟な溜め息を吐いて見せた央。
やっと自分がトラにからかわれていたのだと自覚した。
こういう心臓に悪い冗談はやめてほしい、と心の底から思う。
「有心会に行くところだった?」
「え、ええ、頼まれてた資料返しに行こうと思ってたの。でも途中でトラに会って、終夜に渡しておいてくれるって言うから……もう帰ろうとしていたところよ」
別にやましいことなど何もないのに、なんだか説明が言い訳みたいになってしまった。
全部トラのせいだと睨みつけてみるけれど、彼は素知らぬ顔で「じゃあな」と背を向ける。
「ちょっと待って、若頭」
「なんだよ……ってか若頭とか呼ぶな」
「さっきの話、ちゃんと考えておいてね」
「……おまえも相当頑固だな、当分無理だっつってんだろ」
「難しいことは分かってるよ。けど今のままじゃいずれこの国は駄目になるって、君だってそう思ってるでしょ?」
何について話しているのだろう。ぴり、とした空気が二人の間に流れる。
恐いくらいの緊張感の中、私は無意識に息を詰めていた。
「だからってなぁ、はいそうですかって簡単にキングを釈放するわけにいかねーんだよ。そんなの国民が納得するわけねえし、今より暴動が激しくなったらそれこそ手に負えねえ」
キングを釈放する。
そんな衝撃的な言葉に、咄嗟に央を見上げた。
彼は真っ直ぐにトラを見据えて、凛とした声で告げる。
「政府が解体して数か月、今まともな生活ができている国民は数パーセントしかいないんだ。毎日の食事に困る状況で、……



***





           ***


キスをしたのはどちらが先だっただろうか。
撫子ちゃんの口の中は、驚くくらい熱かった。
「んんっ、ぅ……」
ちょっと深いキスをすると、すぐに涙目になってしまう彼女。
こんなことを考えるなんて最低だ、と自分を叱咤してはみるものの、一生懸命に舌を絡める撫子ちゃんが可愛くて仕方ない。
(正直に言ったら怒るだろうな……)
頭の中で苦笑を浮かべて、目の前にある小さな耳たぶを軽く噛んだ。
短く息を吐いて背中を逸らせた、彼女の腰を引き寄せる。
まだキスしかしていないのに、既に痛い程張り詰めている僕の昂りが、撫子ちゃんの太ももに当たった。
「ッ―…」
途端に体を強張らせた彼女。もっと撫子ちゃんのペースに合わせたいのに、全然余裕が無い自分が嫌になる。
半ば無意識に引けてしまった体に気付いたのか、撫子ちゃんが僕の腕をぐっと掴んだ。
「は、初めてのことが恐いだけで、央のことが恐いわけじゃないの……! だからお願い、やめないで?」
……こんなの、余裕ある方がおかしいでしょ。
「もー…、あんまり可愛いこと言わないで。ただでえさえいっぱいいっぱいなんだから、僕」
「……いっぱいいっぱいなの?」
「当たり前です」
【意外だ】と言わんばかりの顔で見上げてくる撫子ちゃんを、【心外だ】という思いでギュッと抱きしめる。
薄いシャツ越しに触れ合う胸元から、互いの心音が伝わった。
それは全く同じリズムで、慌ただしく鼓動を刻む。
【ほらね】と視線で訴えれば、【本当ね】と君は笑った。
首筋にいくつもキスをして、浮き出た鎖骨の上をジュッと強く吸う。白い肌についた鬱血の痕を見て、ぞくりと腰が震えた。
僕が組み敷いたせいで皺になってしまった、ブラウスのボタンをひとつずつ丁寧に外す。
狭いソファの上ではあまり動けず、どうしても彼女に馬乗りする形になってしまう。
(……すごい眺めだな)
露わになった素肌。恥ずかしそうに逸らされる顔。
思わず息を飲み込んだ。
室温はそう高くないはずなのに、額に汗がじわりと滲む。
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