サクライロノ
窓の外は、色に溢れた世界が広がって。
空も、建物も、植物も、目に映るどれもが正常で。
また泣き出しそうになった私の頭をそっと円が撫でた。
その繊細で優しい指先が、余計涙腺を緩ませる。
「…ぼくは、ここへ来ないほうがいいですか?」
「そ、そんなことない…!」
咄嗟に彼の手を掴んだ。
黒い布の手袋はしっとりと濡れていて、ずっと彼が私の涙を拭いていてくれたのだと知る。
自分自身呆れてしまうほどわがままだとわかっている。
それでも円に傍にいてほしかった。
(今の、円に………。)
そんな考えが頭を過って。
また零れた涙。
prev /
next