caramel
「テーマパーク、ですか?」
「ええ。」
最近よく待ち合わせに使う喫茶店。
いつものように紅茶とお勧めのケーキを頼んだ彼女が、何の前触れもなく机の上にすっと出したのは有名なテーマパークの無料チケットだった。
「貰いものなのだけれど期限が今月いっぱいなのよ。円来週末は一日時間がとれるって言ってたじゃない?丁度いいからどうかしらと思って。せっかく頂いたチケットを無駄にしてしまうのも忍びないし。」
珍しくよく喋る。
女性ならば誰でも好きであろうキャラクターやテーマパークを、素直に好きと言えない所が彼女らしい。
「いいですよ。どうせあなたと会うつもりでしたし、特に予定も決めてなかったんで。」
「ほ、本当??」
途端にぱぁっと表情を明るくした撫子さんに思わず噴き出しそうになる。
ポーカーフェイスのようで全然そうでない彼女はとても分かりやすかった。
「今ね、ハロウィンのイベントを開催しているみたいなの。パークの内装とか食べ物とかもハロウィン仕様になっているらしいわ。週末だから少し混むかもしれないけれど、普段行くよりも楽しめるんじゃないかしら。」
滅多にない撫子さんのはしゃぐ姿は新鮮で、その少しだけ幼さが残る笑顔に思わず目を細めた。
テーマパークには露ほども興味がないし人混みは苦手だけれど、この人がこんなにも喜ぶなら付き合うのも悪くない。
柄にもなくそう思った。
「当日は駅で待ち合わせでいいかしら?」
「いや、車出しますよ。迎えに行くんで家で待っていてください。」
「でも、ちょっと遠いし…、すごく混むと思うけど…。」
「撫子さん人が多いと酔うって言ってたじゃないですか、移動中くらい静かなほうがいいでしょ。」
「そ、そう?円がそれでいいなら、…ありがとう。」
車の中で二人きりになりたいだなんて完璧な下心なのに、こうも素直に御礼を言われてしまうとやりづらい。
信頼され過ぎるのも困りものだと苦笑を零した。
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