それぞれの思い
「雅美ー!飲み行こぉー!」
「あ、アンコさん、お疲れさまですー。飲みにって、今日これからですか?」
待機所のカウンターに身を乗り出し、足をパタつかせながら「ウンウン!」と嬉しそうに目を細めて頷くアンコさん。
その姿が子犬のように可愛らしくて、思わず笑みが零れた。
時計に目をやれば就業時刻まであと20分程。今日は珍しくカカシさんが里内任務なので、できれば一緒にごはんが食べたいしなぁ……なんて少し迷う。
「あの、カカシさんに聞いてみてからでもいいですか?」
「カカシも面子に入ってるよ。ちなみに紅にー、ゲンマとアスマも」
今夜を逃したら、またいつ皆そろって集まれるか分からないから絶対参加するように!と、アンコさんは勝ち誇ったみたいな満足顔で去って行った。
カカシさんがいるなら考えるまでもない。
大人数での飲み会なんてあの歓迎会以来なので、久々の賑やかな外食に胸がわくわくしてしまう。
火の国の地ビール【火葉の結晶】は絶品で、もちろん缶でも美味しいけれどやっぱり入れたて生で飲むには敵わない。
(早く定時にならないかなー)
机の上に山積みになったファイルを棚に戻しながら、無意識に鼻歌を歌いそうになって。
カカシさんのこととなると本当に単純でどうしようもない。
飲み会くらいのことですっかり浮かれきった自分自身に、思わず苦笑した。
あの夜からカカシさんと私の間に、変わったことなんて少しも無い。
彼は相変わらず忙しく、私は私で待機所とアパートを往復するだけの毎日。
カカシさんがいない夜はやっぱり寂しいし、元の世界へ帰る目処も糸口すら掴めていない。
けれどその穏やかな日常が今は酷く愛おしかった。
顔を合わせた時に交わすほんの僅かな会話も。
就寝も起床の時間も違うけれど、ひとつの布団で寝るようになった夜も。
一緒に居られる毎日がとても尊くて、ただ大切だと思えた。
prev /
next