小さな忍
「さて、そろそろお昼にしようか。雅美ちゃんお腹減った?」
俺の問いかけに、彼女のお腹がぐうぅと切なげな音を立てて答えた。
「あ……。」
雅美ちゃんは、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯く。
「アハハ、可愛い返事!よし、じゃ、何か食べたいものある?」
「えっと、カカシさんのおすすめでお願いします。」
「この里のお勧めはー、んー。やっぱり一楽かな。
でも五月蝿いのがいるかもしれないからなぁ……。」
そう言って赤い暖簾を指差しながら眼をやると、そこにはよく知った後姿。
意外性No.1のくせに、こういった期待を裏切らないあたり流石だと思う。
はぁ、と溜息をついた俺を不思議そうに見上げる雅美ちゃん。
何でもないよと笑顔を見せ、暖簾を上げて彼女を椅子へ座るように促した。
―――――――――――――――
「ラーメン二つね。」
慣れた様子で店のおじさんに注文するカカシさん。
するとカカシさんの向こうに座ってラーメンを食べていた金髪の男の子が、
私たちを見るなり目を零れ落ちそうな程に見開いた。
「ババシセンセベ(カカシ先生)!!!!!」
「わ、ちょ、ナルト!飛んでるカラ!」
「!!!」
カカシ先生が「ナルト」と呼んだ少年。
ツンツンと立った金髪に、ビー玉のような碧い瞳の男の子。
口いっぱいにラーメンを頬張ったまま叫んでいるのは、
漫画ナルトの主人公である少年、ナルト君だった。
――――――――――――――――
ナルトは俺と彼女を交互に見て、口をパクパクしている。
絶対に変な勘違いをしているだろう、そう確信しながら様子を見る。
「カ、カカシ先生!その女の人、彼女だってば!?」
(……やっぱな。)
ナルト君の言葉に、今度は雅美ちゃんが口をパクパクする番だった。
(へぇ、俺には少女にしか見えなかったけど、
ナルトには彼女がちゃんと大人に見えるんだな…。)
やはり子供には分かるもんだと、感心していると雅美ちゃんがぐいぐいと俺の袖を引っ張る。
「ん?どーかした?」
「ちゃ、ちゃんと否定してくださいよー!
ナルト君、どこかに行っちゃったじゃないですか!」
「あ、ほんとだ。」
足をパタパタとバタつかせながら、もー!!と顔を赤らめて怒る彼女の頭を撫でた。
「ごめーんね、後でちゃんと説明しておくから。」
俺に撫でられながら不服そうに眉間に皺を寄せる彼女に、
それより、と周りに聞こえないよう耳打ちする。
「雅美ちゃんが異世界から来たってことは極秘扱いになってるからね。
知っているのは五代目、シズネさん、イビキと俺の4人だけ。
雅美ちゃんの安全の為だから協力してネ?」
少し真剣にそう言うと、雅美ちゃんは俺の目をじっと見つめてコクコクと頷いた。
その姿が可愛くって、ついまた頭を撫でてしまう。
雅美ちゃんは、子供じゃありません!と頬を膨らませて怒っていた。
異世界から現れたこの一人の女の子は、この世界の人間と何も違わない。
花が咲いたみたいな笑顔も、子猫みたいに温かい頭も。
だからこそ、彼女の置かれた現実が不憫で胸が痛かった。
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