小鳥の囀りが聞こえ、差し込む朝日の光に開けた目を思わず細める。
まだ焦点の定まらない視界には、カカシさんの穏やかな寝顔があった。
こんなに間近で眠っていたなんて、と恥ずかしがるのも今更だとは思いつつも頬は熱くなってしまう。
すうすうと静かな寝息を立てる彼を見つめて、こうやってちゃんと顔を見るのも久々なのだと知った。
ツンと尖った見た目に反して柔らかく、サラサラと枕に落ちる銀色の髪。
よく見ると眉毛も睫毛も銀色で、降り注ぐ光を受け所々透明に輝いている。
すっと鼻筋の通った高い鼻に、薄く形の良い唇。
(……端正な顔だなぁ)
カカシさんへの気持ちに気づき改めてじっくり彼を眺めると、本当に美形であることを再認識する。
はぁ、と零れたのは感嘆の溜め息。
唇から上へ視線を上げると、いつの間に起きていたのだろうか、カカシさんの片方だけ開かれた黒の瞳と視線がぶつかった。
心臓がドキンと派手な音をたてて跳ねる。
「……オハヨ」
「お、おはようございます……」
ものすごく見てたことがばれてしまった、なんて気まずさから思わず視線が泳いでしまう。
突然高くなった血圧に顔と首筋にじんじんする程の血流を感じていると、彼がふっと微笑んだ。
「こんなふうに誰かに寝顔見られるなんて、雅美ちゃんが初めてだよ……というか俺、ヒトと一緒の布団で寝ること自体、雅美ちゃんが初めてだ」
「え……!?」
意外過ぎるほど意外なカカシさんの言葉に、私は大きく眼を見開いて驚いた。
人と一緒の布団で寝たことがない?
周りの忍仲間の口ぶりから彼の女性関係についてある程度想像できたが、他人と一緒の布団で寝たことがないなんてとても信じられなかった。
そんな馬鹿な、という心情をめいっぱい顔で表現すると、苦笑を零した彼が私の鼻をきゅっと軽く摘んだ。
思わず、ふにゃっと間抜けな声が漏れる。
「ハハ、猫みたい」
「なな、ななな……!」
「イヤハヤ雅美ちゃんが俺をどういう目で見てるのか、よーっく分かったヨ……」
大袈裟にしょんぼりとしてみせるカカシさん。
そんなつもりじゃ――と咄嗟に出そうになる言い訳に、じゃあどんなつもりだったのだろうと言葉が喉の奥に詰まる。
口をパクパクさせる私に、堪えきれなくなったのだろうカカシさんが盛大に噴き出した。
「ハハハ!ごめんごめん冗談。ま、正直な話、俺特定の彼女ってヤツ作ったことないんだ」
引いた?とどこか自嘲気味に笑う彼に、私は黙ったまま首を横に振った。
だって引いたりなんかするわけがない。
カカシさんの本心が切ないくらいに理解できてしまう。
大きな背中を震わせて、泣き叫ぶみたいに吐露されたあなたの内側。
ふわりと柔らかく微笑むカカシさんも、人を殺して自分自身も殺しているカカシさんも。
きっと私が今まで見てきた全部、その全部が本当のカカシさんで……
彼がひた隠そうとしていたものだって、たぶん私はずっと前から気付いていたのだと思う。
けれど、私に対してそれを曝け出してくれたこと。
それが私にとってどれだけ大きな意味があるか、カカシさんにはきっと分からないだろうけど。
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