同居
雅美がこの世界に現れてから、2日が経とうとしていた。
尋問が終わり、弱い薬とはいえ自白剤を使用した為昨日はそのまま病院に泊った彼女。
午前中に五代目が診察を済ませ、退院となったのはつい先程の話だ。
五代目の命により、彼女の監視兼世話役を俺が引き受けることになった。
もちろん監視という言葉は彼女には伏せ、護衛という形にした。
俺が任務でいない時には暗部の者を監視に付けるそうだ。
一般人相手に少々やり過ぎのような気もするが、異世界から来た娘とあれば無理もないだろう。
俺の歩く少し後ろを、不貞腐れた子供のようにトコトコと付いてくる雅美。
ちらりと横目で様子を窺うと、どこかくすぐったい気分になる。
(何だか子猫にでも懐かれたみたいだ。)
雅美は俺が世話役だという事を聞いて、飛び跳ねる程驚いていた。
女の人がいいです!と必死に訴えていたものの、五代目は取り合わなかった。
上忍専用のアパートにある広めの間取りの部屋。
俺と雅美はしばらくここで共に暮らすことになる。
指定された部屋。支給された鍵。
鉄製のグレーのドアが、ギイッと重たい音を立てて開いた。
扉を開けたまま脇へ避けて部屋の中へ促すが、彼女は躊躇って動こうとしない。
チラッと俺の顔を見て俯く、そんな行動を繰り返している。
―――ま、第一印象があんなだったしね。
でも困ったな、こんなに警戒されちゃうなんて……。
さてどうやって声をかけようか。頭の中で苦笑しながら一考する。
しかし先に口を開いたのは彼女の方だった。
「な、な、なんで男の人なんですか・・・?」
俯きながらボソボソと発せられた言葉は抗議の言葉のようだ。
聞こえるか聞こえないくらいの小さな声で、雅美は弱々しく異議を唱え続ける。
「お世話役なら、絶対女の人のほうがいいじゃないですか…!
突然知らない男の人と一緒に暮らさせるなんて、ひ、非常識ですっ…!」
(ま、そりゃそうだな。)
誰が聞いても正論だろう彼女の言い分に心底納得しつつ、
開け放したドアを押さえるように寄りかかる。
ふう、と息を一つ吐くと、雅美の肩が怯えるようにピクリと揺れた。
怖いと思うなら言わなきゃいいのにと、思わず笑ってしまう。
「まぁ、そう言わないでよ。
俺は世話役だけど、君を守るっていう役目もあってね。
こう見えて俺、結構強いのよ?」
ニコッと微笑んでそう言うと、雅美は俺の目をじっと見つめて呟いた。
「……カカシ先生が強いってことは、ちゃんと知ってます…。」
「………。」
消えてしまいそうな小さな声とは対照的に、彼女は正面から真っ直ぐ俺を見る。
真っ黒な瞳のその奥深くに、俺ごと吸い込まれてしまいそうな気がして思わず息を飲んだ。
絡み合うとも、ぶつかるとも違う。
視線と視線が一つの線になるような不思議な感覚に、背筋がぞくりと粟立つ。
一瞬俺は、まるで金縛りに合ったみたいに動けなくなった。
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