カカシとゲンマ
明日は満月だろうか。
完全な円より僅かに欠けた月から明かりを受ける慰霊碑は、そこに刻む戦友たちの名を静かに抱いていた。
記された名のほとんどを知っているからだろうか。
ここへ来ると懐かしい面子に会えた安心感と、生きている自分を思っての孤独感を両方同時に覚える。
ふ、と短く息を吐いて親友の名を見つめた。
なぁ、オビト。
おまえなら今、こんな情けない俺に何て言葉をかける?
忍として生きた30年間で俺が学び得たもの。
数えきれない程のものを無くし、己の内側と戦い、諦めることにも慣れ、痛みにも動じなくなった。
俺は忍だから、自分の信念とか主張とか、思い通りにいかないことなど腐るほどあって。
それでもそれなりに誇りを持って今までやってきたからこそ、こうして上忍師という立場にあるのだと思う。
振り返れば後悔だらけの過去だけれど、自分自身の行動や感情を支配できるのはその経験があるからだ。
だからこそ今、雅美ちゃんという存在が怖い。
今でさえ俺の全てを簡単に崩してしまう雅美ちゃんに、これ以上惹かれてしまったら……そう考えると心の底から恐ろしかった。
(じゃあ彼女から離れればいいでしょ)
至極シンプルな解決策。
けれどそんな簡単な答えすら有り得ないと笑い飛ばしてしまえる程、俺の中での彼女は確固たる存在になっていた。
彼女を前に冷静になれないならば護衛など到底無理だろう。
けれど俺以上に彼女を守れる奴なんているわけがない。
この支離滅裂な自問自答を繰り返しては、また親友へと語りかける。
ループする思考に頭をガリガリと掻いて、わざと大きな溜め息をついた。
「あー、ほんっと情けないネ……」
半ば投げやりのように出た言葉をかき消すみたいに吹いた風。
乾いた空気は俺の足元をするりと一周して離れ、小さなつむじ風を巻き起こす。
枯葉と土の匂いの中、知った匂いがひとつ。
できることなら今一番顔を合わせたくなかった相手の気配に、凪いでいた胸の内がじくりと粟立った。
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