初めての喧嘩
カカシさんと暮らすアパートにつくと、部屋の明かりはまだ消えたままだった。
彼が今もあの綺麗なくの一と一緒にいるのかと思うと、やりきれない気持ちになる。
漏れそうになる溜息を飲み込み、笑顔でゲンマを見上げた。
「送ってくれてありがとう。ゲンマ」
「今度は二人で飲みに行こうぜ。何もしねーからさ」
「もー、絶対嘘でしょ……なんかゲンマが分かってきた」
呆れたように唇を尖らせた私を見たゲンマは、カラカラと愉快そうに笑う。
今こうして私の隣にゲンマがいてくれて良かったと、心から思った。
ひとしきり笑ったゲンマは、ちらりと家主の居ない部屋へと視線をやる。
「カカシさん、まだ帰ってねぇみたいだな」
「うん。……すっごい美人なくの一さんだったもんね。今日は帰って来ないかもしれないなぁ」
(あ……自分で言っておいて泣きそう)
今までカカシさんが任務以外で外泊したことなんて無いのに。
女性にもてているカカシさんを初めてあんな風に目の当たりにしたせいか、不安で不安で胸が苦しかった。
じわりと滲み出てくるように潤む瞳。
泣いたって仕方ないしゲンマを困らせてしまうのは嫌だから、隠すように俯いて必死に瞬きを耐えた。
「フェアじゃねーのは嫌いだから言うけどな、カカシさんがあのくの一達と飲んだのも、わざわざ送っていったのも……お前に嫉妬の矛先が向かないようにするためだぜ?」
「え……」
思わず顔を上げれば、ゲンマは既に背中を向けて歩きだしていて。
呼び止めるでも無く小さく名前を呼ぶと、彼は右手を軽く上げただけの返事をして夜の深闇に消えていった。
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