自虐的に笑って、引いた?なんて言ってみれば、彼女は潤んだ瞳で自分を見つめてゆっくりと首を振る。
その眼差しは、俺の過去を知る忍達が時々見せる、同情や憐みを含んだ視線とは違う。
どこか愛おしさを孕んだような、慈しみに溢れたものだった。
簡単に俺の中の壁を破って、春に吹く風みたいにふわりと入り込んできた君。
君が俺にくれる羽根みたいな優しさを、俺も君に返したいと心から思う。
けれど君に向ける気持ちはいつだって未熟で、どうしたらいいのか分からないんだ。
傷つけたくないのに、全てを奪ってしまいたいたくて。
優しくしたいのに、何処へも行けないように縛り付けてしまいたくて。
指通りの良い髪の毛をさらりと梳けば、素直に身を委ねる雅美ちゃん。
胸を締め付けられるような苦しさに、感情が込み上げる。
お願いだからそんな眼で見ないで。
ギリギリで抑えている感情の箍が外れてしまうから。
俺がこんな想いを抱えているなんて、きっと君には想像もできないだろうけど。
二人の間に流れていた長い沈黙を破ったのは、俺の情けない腹の音だった。
まんまるの目をぱちぱち瞬かせた雅美ちゃんが声を上げて笑って、俺も笑う。
やたら擽ったいこんな朝が嬉しくて仕方ないなんて、あいつが知ったらどんな顔するだろう。
脳裏に浮かんだゴーグルの奥で光る悪戯な瞳に、思わず目を細めた。
「さて、と……雅美ちゃん、体、何も変わった所ない?」
「え?…あ、はい。全然いつも通りです」
体を起こしてベッドに胡坐をかけば、彼女も俺につられるように起きる。
きちんと正座する姿勢良い姿に小さく笑ってから、真っ直ぐ雅美ちゃんに向き合った。
「ちょっとの間動かないでね」
疑問に思って首を傾げる彼女の少しだけ茶掛った眼に、俺の赤い瞳が映った。
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