待機所での仕事は思いのほか忙しく、早く覚えてしまおうと必死に作業をしているうちに、いつの間にか日勤の就業時間を迎えていた。
「もう交代の時間ですので、そろそろ終わりにしませんか?初日から頑張り過ぎるとばてちゃいますからね。」
「あ、……そうですね。」
「お送りしますよ。上忍専用アパートでいいんですよね?女性の一人歩きは危ないですから。」
「いいんですか?すみません、助かります。」
まだこの辺りの地理にいまいち自信がなかったので、イルカさんの申し出は正直助かった。
笑顔で御礼を言うと、彼は少しだけ照れくさそうにはにかむ。
ずっとカカシさんと過ごしていた私に、イルカさんの反応はとても新鮮なものだった。
夕方の木の葉の町並みは、人も建物もセピア色に染まり、どこか儚くその影を地面に落とす。
イルカさんは私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれていた。
暫く雑談をしていると、少しだけ佇まいを直したイルカさんが改まったように聞いてきた。
「あの、雅美さんはカカシさんと…その、一緒に暮らしてらっしゃるんですよね?」
「はい、カカシさんにはとてもお世話になっています。」
なぜか聞き辛そうにそう言ったイルカさん。
私が普通に肯定すると、イルカさんは更にどもりながら言葉を続けた。
「あのー…、無粋な質問だと思いますが、雅美さんとカカシさんは、…お付き合いなさってるんですよ、ね?」
「……………へっ!!?」
「あ、あれ、違うんですか??」
「ち、違いますー!!カカシさんは私のお世話係というか保護者というか…、
とにかく恋人とか、そんなんじゃありません!!」
手をブンブン振って精一杯否定する私に、イルカさんは目をぱちぱちさせて驚いた後、バツが悪そうに頭を掻いて笑った。
「そ、そうだったんですか。
すみません、何か変なこと言ってしまいましたね。」
「あ、こちらこそ、大きな声を出してしまって……。
あの朝の会話聞いたらそう思ってしまっても仕方ないですよね。」
「ははは。いやー、あのカカシさんに恋人ができたのかと、すごくびっくりしたんですよ。」
(あのカカシさんって。)
今の一言からカカシさんの女性関係が想像できてしまう。
いや、もしかしたら男の人が好きってことなのかも、そんな馬鹿みたいな考えが脳裏を過ぎった時、
頭の上から私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「雅美ちゃーん……と、イルカ先生もお疲れ様です。」
噂をすれば何とやら。
屋根の上にはまるで日向ぼっこしている猫のようにカカシさんが座っていた。
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