四方を冷たいコンクリートの壁に囲まれた、六畳程度の窓もない部屋。
真ん中には壁と同じコンクリートでできている椅子がぽつんと置いてある。
部屋に足を踏み入れた途端感じる黴臭いじっとりとした空気に、
ゾクッと悪寒が走った。
「そこへ座れ。」
男に言われるがまま腰掛けた椅子はひんやりと冷たく硬い。
「多田雅美、これよりお前の取調べを行う。
一般人相手に手荒な尋問は避けたい。
よって、自白剤を使用して早急に内実を明かす事とする。
……それで良いでしょうか、綱手様。」
「ああ。時間を掛けると雅美の体への負担も大きくなるからな。」
男は懐から小さな瓶を取り出し、飲め、と私に差し出した。
震える手でそれを受け取り恐る恐る蓋を開けると、
とろりとした透明な液体からは、花のような甘い香りが漂ってきた。
(意外……、自白剤ってこんな匂いなんだ。
でもきっと味は不味いんだろうけど。)
人一倍怖がりで警戒心の強い性格の私だが、
一旦開き直ってしまうと驚くほど冷静になり肝が据わる。
その性格も時と場合によっては困りものなのだが。
ふーっと深く息を吐き、ぐいっと一気に液体を喉の奥に流し込んだ。
(うわっ!やっぱまずい!)
眉間に思い切り皺を寄せ、口の中に広がる表現し難い苦味に耐えていると、
突然グワンと脳が揺れた。
グルグルと廻っている視界が徐々に白く霞んでいき、頭の中が濃霧で覆われる。
混濁する意識の中、どこか遠くでイビキという男の言葉を聞いていた。
―――――――――――――――
「綱手様。これ以上は何も出てこないかと。」
「……そうだな。イビキ、お前には雅美がどう見える?」
「…この女自体に危険は感じられません。
しかし女の存在が里にとっての危険となる可能性がある。
生かしておくのは得策ではないと思いますが。」
イビキの言葉に頷いた。
「私もそう思う。
今は里の為、どんなに小さな危険分子でも見逃すべきじゃない。」
そう言いながらも、何故か気が重い。
うまく表現できないが、この娘は何か気になるのだ。
あまり問題を先送りするわけにはいかないが、別段急ぐこともない。
とりあえずは監禁して様子を見るというところが妥当だろう。
(カカシのやつが何て言うかね…。)
説得が面倒そうだな、と苦笑した。
「シズネを呼べ。体内から薬を抜き、身体検査を行ってから今後を決める!」
「御意。」
イビキが部屋から姿を消し、尋問室に静寂が訪れる。
椅子にもたれかかったまま意識を無くしている娘を見て、複雑な思いが込み上げた。
火影室へ戻る廊下を歩きながら、釈然としない気持ちで酷く苛立つ。
火影として、里を守る為の決断。
自分がしようとしていることは間違ってなどいない筈。
そう思えば思うほど生まれる、違和感は何なのか。
(異世界から来た娘、ねぇ……。
結論を出す前に、念のため古い文献を調べてみるか。)
深く息を吐いて、足を速めた。
prev / next