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CZワンドロ・ワンライで、確かお題は【姿は変わっても】とか……そんなだったような。曖昧で申し訳ない。




『面会を希望する【英円】は、この男で間違いないか?』

元政府関係者が収監されている施設。
その監視官に見せられた写真に、僕はすぐ頷くことができなかった。


「どうもありがとうございました、また来ます」
「……お前も諦めないな」
「はは、それだけがとりえなもので」

ふ、と口元を緩めた監視官である彼との付き合いも、もう半年以上経つだろうか。
当初は目も合わせてくれなかった頑なな態度は、ほんの少し和らいだように思う。
まあ確かに足しげく通ってますもんね、と仄暗い夕暮れの空に向かって独りごちた。

政府が陥落して、キングやそれに関わる人達が捕まって、その中に弟である円がいると知ったのは一年程前になる。
ずっと会いたくて、あいつの話が聞きたくて、政府関係者への面会が認められるようになってからすぐに希望を出した。
あの円が僕と離れて政府にいただなんて、きっと何かよっぽどの理由があってのこと。
あいつ自身の意志なはずがない。
そう疑っていなかった僕は、写真の弟の姿に狼狽えた。

(面会を断られるの、今日で18……いや19回目か)

街灯と呼ぶには頼りないランプの光の下で、手帳をめくりながら深い息を吐く。
【円と面会】と印された予定表に、バツの印を上から書いた。
ペラペラとページを遡って、そのバツ印の数に気分が落ち込んでいく。

――もう、円は僕のことなんて忘れてしまったのだろうか。
――兄という存在など、彼にとっては取るに足らないものだったのだろうか。

不意に脳裏を過ったそんな考えを消すように、強く頭を振る。
諦めないのが僕のとりえだろ、諦めるな。そう心の中で念じても、一度落ちてしまった心は浮上しなかった。
はぁ、と再び溜め息を吐いて顔を上げれば、目の前にあった建物の窓ガラスに映っていた僕の姿。
元々自分の身なりには無頓着な方だけれど、最近忙しかったせいもあってこうしてじっくり自分の姿を見るのも久しぶりな気がした。

「……僕ってこんな顔してたっけ?」

お世辞にもハツラツとしているとは言えない。
例えばこんな顔をして道を歩いてる人を見かけたら、つい「大丈夫ですか?」と声をかけたくなるような。
誰がどう見たって酷い顔、だった。

「ぷっ…くくく……」

あまりにも情けない自分自身の姿に、いっそ可笑しくなってしまう。
もし円が今の僕を見たとしたら、なんて言うかな。
きっと訝しげに眉を顰めて、央がこんな状態では全世界に多大な影響が及んでしまいます、とかお決まりの大袈裟を言って。
不器用ながらに、なんとか僕を元気づけようとしてくれるんだろうね。

ねえ円。
お前が僕と会おうとしない理由が何なのか、色々考えてみてもやっぱり分からない。
だから不安にもなるし、落ち込みもするよ。
時にはもう諦めようか、なんて思いつめる日だってある。
だからこそ僕は絶対にお前の口から、お前の言葉で聞きたいんだ。
あの写真のように、見た目同様中身も変わってしまったのか、それとも僕の良く知るお前のままなのかどうか。

そしてもし、お前が昔と違うお前になっているのなら、また一からお前を理解するまで話をしよう。

円。
お前は何があろうと、僕のたったひとりの弟だ。
それだけは、どんなに世界が壊れようと変わらない事実なんだ。

2015/11/03 23:27

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