▼ レイン誕生日に間に合わなかった小話
レイン誕SS。彼は二十歳になりました。
でもお話自体は全然二十歳じゃないです。
鷹斗君がキングとして元気に世界を支配してくれるのはありがたい。
無茶苦茶な彼に文句を零しつつも面倒を見てしまう円くんは、そうやって不機嫌そうにしている時が一番いきいきしている。
活気がある政府はいい。
皆が一丸となって世界の絶望へと向かっていく様は、滑稽で愉快で……ボクの願いそのものだ。
けれど時々、感情を持て余すような出来事があって。
今日もそのうちのひとつ。
「……ビショップ、きみは本当に手先が器用と言いますか……てゆーかキングに真面目に付き合ってあげちゃうあたり度が過ぎる程のお人好しですよねー」
定例会議の後、キングが神妙な顔をして呼び止めるものだから何かと思えば。
ビショップがいつもの仏頂面で持ってきたものは、いわゆるバースデーケーキというやつだった。
キングの要望なのかビショップ本人の思いつきなのか、とても三人では食べきれないくらいのホールケーキに描かれているのは可愛らしいウサギ。
こんなファンシーなケーキを前に、いい大人の男三人という図。
深い溜め息が出てしまうのも仕方ないと思う。
「キング、もうぼくは退室してもいいですか? 突然与えられたこの特別業務のせいで仕事遅れてんですけど」
「ええ、せめてルークがロウソクの火を消すまでは付き合ってよ」
「はぁ、あなたたちロウソクまで用意してるんですか……」
いそいそとロウソクを数本取り出したキングが、ウサギを避けるように刺していく。
火を点けて電気を消して、さあ、と向けられた視線。
歌でも歌われたらたまらない、と促されるままオレンジに揺れる火を吹き消した。
「何を願ったか分からないけど、叶うといいねレイン。誕生日おめでとう」
「……まぁ、おめでとうございます」
(……願いごとなんてしてませんけどねー)
馬鹿らしい。心底くだらない。
そう感じるのに、どこかこの感覚が悪くないような気がしている自分も確かに在って。
感謝をしたいとは微塵も思わないけれど、嬉しくないと言えばきっと嘘になるだろう。
渡されたフォークでウサギの耳を一口。
円くんの作るケーキは繊細な甘さで驚くほど美味しい。
「美味しいです……ありがとうございますー」
世界を絶望へ導くお手伝いは、やりがいもあって楽しい。
落ちるところまで落ちていく世界を、こんな特等席で見ていられるのは喜ばしい。
けれど時々、こういう感情を持て余す。
6月1日の今日も、そのうちのひとつ。
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