あいつはいつも傷だらけやった。頬には湿布、腕には包帯が当たり前、男の俺には見ることはできへんけど、噂やと腹にも痣が仰山あるらしい。何の傷かと問うと、転んだとへにゃりと顔を歪ませていつも決まってあいつは笑った。けど俺は知ってんやで。それは違うって、俺は知ってる。お前のその傷は何もかも、今お前が付き合ってる男のせいやろ。お前はいつも笑っとる。傷ついてんのに笑っとる。痛めつけられとるのに。それはどんなことをされても、その男が好きだから、離れとうないからなんやろ。お前は馬鹿や。お前は阿呆や。だけど。



「こんなとこで何してん」
「……ひかる……」
「寒いやろ。ほら」
「……コーヒー……?あったかい」



でも、好きやからって、お前が傷ついていいはずないんや。お前は苦しさをうまくはき出せなくて外で声を押し殺して泣くんやろ。俺は知っとる。今日やって案の定、こいつは公園でブランコ乗ってしくしく泣いとった。なんてさみしいやつなんやろう。ああ、また腕に生傷が増えとる。俺はこいつの傷を見るたびに、燃え上がるような熱を体全体で沸き起こるのを感じるんや。お前をいとも簡単に傷つけることのできる距離にある男に嫉妬さえしながら。目の前の傷だらけで涙を流すお前に嫌悪も哀愁も憎悪も感じながら、それでも俺は、あったかそうに缶コーヒー飲んでるお前が愛しくてたまらないんや。傷ついたお前を俺は受け止めてやりたいのに。お前が泣くんなら俺はそれを抱きとめてやりたい。涙をぬぐってやりたい、髪をすいて大丈夫だと言ってやりたい。



「また男やろ」
「……」
「ええ加減、別れたほうがええんちゃうの」
「……私がいけないの……いつも、彼をいらつかせちゃうから」



ほら、そうやって、かばうんやろ。かばってどないするん。あいつはお前を愛してなんかない。愛こその仕打ちやなんて俺は認めへん。そんなものに愛なんてあらへん。お前やって気づいとるんやろ?どれだけ傷つけばお前は理解るんや。どれだけ突き放されれば、お前はあの男から離れよう思うんや。どうすればお前は俺のものになるん?俺の想いにきづかへんで、あの男を想ってるお前を見るのは辛すぎてたまらへん。



「光、ごめんね、私は大丈夫だから」
「……何言うてんねん、大丈夫やあらへんやろ」
「大丈夫なの。私は彼を愛してるから、大丈夫なの」
「……俺が大丈夫やあらへんわ……」
「光?」



どうしてお前は、俺よりお前をたくさん傷つける男を選ぶ?俺はお前を好きやのに。お前を大切にしてきとるのに。どうしてお前は、俺に見向きもせんで、その男のところに行くん?どうしても俺はお前を手にいれられへん。お前をあの男から奪い取ることができへん。無理矢理しよう思うならいくらでも考えた。あの男から奪い取って、ずっと、ずっと俺のものにすることを考えた。けど、たぶん、お前は今のようには笑ってくれへんのや。今のように、優しく俺を映す瞳さえもなくなってしまう。お前の心はもうあの男のもので、もう俺には響かへん。



「……なんでもあらへんわ」
「なーにー気になるじゃん」
「なんでもあらへんっ」
「……悩んでるなら、なんでもいって」
「は?何言うとんねん」
「私……光がいてくれてよかったから」
「……」
「光が傍に居てくれるから、私、笑えてる」



お前はなんて残酷なんやろう。お前はなんてずるいんやろう。そうやって俺の心を勝手につかんで、離さへんで、引き止めて、なんてずるい。神様なんておらへん思とるけど、今だけなら、神様、どうか今晩の彼女の優しい微笑みは、ずっと俺だけのものにしてほしい。俺だけが覚えていたいと、心から思いますから。








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