午後のあいしかた

ごろごろと寝転がるのがすき。お母さんとホームセンターに行ったとき一目ぼれして買ってもらった手触りの良いカーペットの上で、寒くもなくって暑くもない、小春日和な日に寝転がるのがすき。特に土曜日の午後、平日の喧騒から逃れて、次の日はまた休みで、ただただごろごろできるとき。あれやんなきゃー、これやんなきゃー、とか(あんま)考えなくてすむとき。そして特にひかるがそばにいるとき。彼はだいたい休日のどちらかにはわたしの家に来て、特にすることもなく雑誌読んだりテレビみたり、時にはわたしが面倒くさくてためこんでた洗濯だとかアイロンがけだとか掃除だとかやってくれる。お互い一人暮らしをしているけど、きっと彼の家のほうが綺麗に違いない。きっとそうに違いない。ちなみに今はわたしの買ってきてた女性週刊誌読んでる。多分ただ眺めてるだけなんだろうけど。

何もする気がおきない。折角ひかるがいるのにな。きっかけがなきゃ出かける気にもなれない。でもしあわせ。すごくしあわせ。今日は土曜日で、大学の課題も今週はなくって、天気良くて、寝転んだ視線の先にひかるがいるのがすっごくしあわせ。しあわせに溶けちゃいそうだ。あー、ひかるひかるこっち見て、ひかるひかるひかる

「……なん?」
「へへー」

向いた向いた。テレパシー。嬉しくって足をじたばたさせると、ひかるはやさしくほほえんでくれた。き せ き !これって奇跡、奇跡なんです、いつもは眉間のしわ寄せてめんどくさがって家事を放棄しがちなわたしを叱ってばかりなのにね。あ、わたしが自粛すればいいのか。

「機嫌いいね」
「まぁ」
「なんかあった?」
「ようやくレポートから開放されたんや」
「ああ、研究課題の」

これでしばらくは気の抜けた生活が送れる、と彼はあくびを漏らした。……好き。好きだと思った。だって、あくび可愛いじゃん。手をかざさないところとか男らしくていいじゃん。好きだ。

「…………好き」
「ん」
「ひかる、好き」
「……おん」
「ひかるは?」
「はぁ?」
「ひかるはー?」
「……すき」
「!」

機嫌がいい!いつもなら言ってくんない!嬉しくって嬉しすぎてぐるぐるぐるぐる床を転がりまわる。すきの言葉がリフレイン。あほちゃうか、と漏らすひかるを見ると、あ、やっぱり、顔あかい。耳まで超あかい。慣れない言葉だってことはわかる。ひかるに甘い言葉は(正直)似合わないし、キャラじゃない。でもときどきこうやって言ってくれる、そんなひかるが大好きです。

「ひかる好き」
「お前、なんべんも恥ずかしやっちゃな…」

ほふく前進してひかるの膝元に向かう。そのままぎゅうっと彼の腰にしがみつく。はぁ、て溜息つくけど、それでも頭を撫でて受け入れてくれる彼が好き。あれ今日何回すきって言った。わかんない。

「いいにおい……」
「嗅ぐな」
「今日いつまでいる?」
「んー、レポートも終わったしな」
「泊まりなよー」
「ええんか」
「是非」
「俺のジャージあるんか今」
「うん、ていうか上下下着きっちり揃ってますが」
「……俺忘れ物仰山あんな」
「案外ねー」
「ちゅーか、泊まれ言うんやから夕飯の材料きっちり揃っとるんやろうな」
「……それには自信がありません」
「おい」
「冷凍パスタなら……」
「アホ、折角やっちゅーのにレンジパスタで済ませてたまるか」
「買い物行く?」
「当然」

やったぁ、ひかるとお出かけデート、買い物デート。のんびりとカート押しながらスーパー回るのも好き。なんか新婚さんみたいじゃん。しあわせじゃん。どうしよう今しあわせだ!急いで立ち上がって乱れた髪をとかし直して、バックをとりだして、ばたばたしてうかれてたらテレビの配線に足ひっかけた。あほちゃうかとひかるの馬鹿にしたような声がして、ひかるの方向いたらもう玄関口にいた。あわてて準備を早める。はよしろー、と茶化す声になぜかにやける。へへ。

「ベランダ閉めたか」
「うん」
「窓は」
「うん」
「よし」
「あっ、ひかる、忘れ物」
「は?」

キャップ被って玄関に立つひかるに、勢いよく飛びついた。飛びついたのにビクともしない彼にまた「キュン」とする。男なんだなぁ、わたしひとり、ちゃんと受け止められるんだなぁ。首に思いっきり腕をまわして、ひかるの顔をしっかり見つめる。

「いってきましょうのキス」
「意味わからん」
「今日してない」
「……ええやん別に」
「折角したいって言ってるのに勿体ない」
「……はぁ」

ひかるがわたしを自分から引き剥がして、小さくリップノイズをたてて、唇にキスをした。優しいキス。可愛いキス。ちゅっ、だって、なんて愛おしすぎるんだろう。優しい感触が離れた後のひかるの顔は照れくさそうで、キャップを深く被りなおしてわたしの手をとって出発を促した。そうやってすぐに照れちゃうんだから、もうほんとに

「ひかる好き!」
「おれも好き」






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