融解エマージェンシー

「もーこら佐助!また雑誌なんか読んで!早くゴミまとめてよね!」
「気合い入ってんねー」
「明日年内ゴミ捨て最終日なんだから……わかってんでしょ」


二人でこのアパートにて一緒にすごすのも、2年とちょっとくらいになる。
年月を経ていくとやっぱり色んな思い出にも似た不要物は増えてきて、今日は二人仲良く大掃除だ。


「ねー」
「なに、佐っ…」


すきあらば頬に額に唇にキスをしてくる佐助が可愛くて仕方ないが、いけないこのまま流されると大掃除どころでなく1日が終わってしまう。
佐助はとっても流し上手で、わたしは流され上手だから。
まあ、佐助が甘えてくるのはきっと世界でたった一人、わたしだけだってこと知ってるから、邪険にはできないんだけど。


「佐助っ」
「ん?」
「だーめ、だってば……」
「あは、やっぱり?」


佐助は舌を出してはにかんで、また掃除に戻る。
わたしもふう、となんとも幸福なため息をついて掃除に戻る。
佐助も今日という日がなんなのかわかっているから簡単に身を引いてくれるのだが、結局甘える回数はいつもの数倍にも達するので、あまり意味がない。







「佐助」
「ウン?」
「要るものと要らないものわけてって言ったよね」
「ウン」
「待て、あんたこれ全部要るっていうの?」
「当たり前でしょーが」


佐助はにやりと笑った。
わたしは佐助が笑う理由がわからない。

わたしは佐助にタンスにつまっている長年の産物の整理を頼んだ。
要る物と要らない物、きっちりわけてくれとも頼んだ。
だというのにこの男、全部捨てないと言い張る。
嫌がらせなのか。かまってちゃんもここまでくるとさすがのわたしも怒りが沸きかける。

佐助はちょいちょい、と手をこまねいた。
わたしは今度は諦めのため息をついて、換気扇掃除のために使っていたゴム手袋をはずして、カーペットに座る佐助の隣に腰を下ろした。
佐助は嬉々としてわたしの眼前に、ひとつひとつ物を並べて説明し始めた。


「これは大学祭でアンタがつけたうさみみカチューシャでしょ、これは一周年記念に行った遊園地の半券でしょ、これはアンタの実家に行ったときに弟さんから貰った似顔絵と」
「ちょっと待ってストップストップ」
「ん、なに?」
「佐助……え?」


わたしが口をあんぐりとあけて佐助の顔を凝視しているのに、佐助は余裕たっぷりの顔でいて。
佐助は全部大切なんだよ、って、呟いて。
それで急に、急に申し訳なくなって。
佐助が大切にしてくれていたものを、わたしは要らない物にしようとしていたなんてことが、とても申し訳なくて。


「さ……、ごめん、なんか」
「えぇー?謝らないでよ、ね?俺様が勝手に思い入れてるだけだもん」


佐助はわたしの頭をぽんぽん、と優しく叩いた。


「二人の想い出はさ、全部俺様の宝物なんだ、どんなものでも」


佐助はわたしを流れるように抱きしめた。
わたしの頭を覆いこむように両腕でしっかりと抱きしめて、わたしは佐助の想いが嬉しすぎて、ちょっぴり涙がでた。
佐助がこんなにもわたしを大切にしてくれている。
わたしを一番にしてくれている。
わたしは今年、何か、佐助にあげられたのかなあ。


「……こんなに佐助に愛されて、わたしは幸せ者だね」
「あは」
「わたし、何か返せてんのかなあ……」
「何言ってんの!」


佐助はわたしをぺりっと引き剥がして、わたしの両頬を両手でがっしり掴んで顔を覗き込んだ。ち、近い。


「俺様に『好き』って気持ち、教えてくれたの、アンタなのに!」
「えっ」
「もう、どうしてくれんのかなあ。俺様こんなデレデレになっちゃってしまりのない男になっちゃって。職場でも良く怒られるんだよ?旦那は、良いことだって褒めてくれるけどね」
「さ、っけ…」
「好きってとても素敵な気持ちだよねえ。なんだか無限のエネルギー。すごいもん。俺様、きっとアンタがいないともう駄目だよ」


佐助はとっても優しくて暖かいこと言ってくれて……いるはずなのに、何故かとっても妖しげに笑う。
わたしは生唾をごくん、と飲み込んで、佐助の妖艶なオーラに飲み込まれる。
こうなったら最後、わたしはいとも簡単に佐助に丸飲みされてしまうのだ。




(……で、結局佐助くんに最後まで流されちゃいましたとさ)
(あは、掃除終わんなかったねー)
(っはああああああ……)


2010/12/31/Fri

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