愛をちょうだい!

「かんぱぁぁぁあい!」


乾杯じゃないそこはただいまだ。
といつもなら呆れながらあいつのボケに構ってやるところだが生憎今の私にはそんな余裕は微塵もない。

『部署の飲み会行ってきます
帰るのは10時くらいになるかな
ごめんね!』

と夕方にメールを受けた。
正直、あいつの部署に居るであろう男と飲んでる、と考えるだけで自分の沸点の低い嫉妬心と独占欲が暴れだすのを感じるのだが、彼女が社交辞令の飲み会に参加するくらいでそこまで、と余裕がない男とも思われたくない。
メールはいい。便利なものだ。直接それを言われたら不機嫌に返事を返していたところだったが、メール上の自分は至って平静を保っていられた。


10時に帰ると言っておいて10時に帰らないのはいつものことだった。
自分だって人付き合いの一環でそうなることは多々あるし、それくらいは目をつぶる。
しかしなんだ。貴様。時計を見ろ。今の時刻を数分違わずきっちりと読め。
深夜2時を回っているとは一体どういう了見だ?


「貴様泥酔してしかもこんな遅くに帰ってくるとはどういうつも」
「みっつなりいいいい」


靴をのろのろと脱いでると思ったらいきなり飛び付かれた。
心臓が跳ねるどころではない。
そんなときめき(こいつが以前教えてくれた恋愛に関する心の機微のことらしいもの)よりもこいつの酒臭さが遥かにうわまっている。

玄関からずるずると酒に潰れて私の腰にしがみついてくる彼女を引きずって、リビングのソファーに軽く投げるように座らせた。
とろん、と甘い瞳ではない、でろんと酒に支配されている姿は本当にどうしようもなくみっともない。妙齢の女がなんて姿だ。

水道から水を汲み渡すと、水など最早自らの相手には相応しくないとばかりに一瞬で飲み干した。
うぃ〜っくとおどけるこの女が、自分と付き合いあまつさえ同棲しているのかという事実に閉口する。


「わたしさあ、飲み会で同僚の子にべったべたに口説かれちゃった」


自分も飲もうと口に入れた水が盛大に吹き出た。
三成きったなあ〜い、げらげらと彼女は笑った。
……笑っていられるこの女が信じられない。
そんなことをこの(沸点の低い嫉妬心と独占欲を持つ)私に言うなど!


「……っ本当にどういうつもりだ貴様!何をへらへらと笑っている!」
「しーっ」


人差し指を静かに、と口元に当てて、そろそろと近づいてきた。
そして、ちゅうっ。
と自分で効果音をつけながらこの女は柔らかい唇を俺のそれに押し当ててきた。
最後まで聞きなさい、と頬を膨らまして怒るこいつは、明らかにいつものこいつじゃない。自分からキスなどできる女じゃないのだ。
不可解さが増して訳がわからなくなり、俺は押し黙った。


「まずいつもかわいいと思ってたんだよおとか、センスいいねえとかいろいろいわれてねえ」
「……そうか(いらいら)」
「次にもっと君に早く出会えてたらなあとかねえ」
「……(いらいらいらいら)」
「最後にはねえ!石田より俺のほうがきみを幸せにできるのになとかねえ」
「…っ、きっさまそれ以上言ったらただじゃおか」


彼女はまたしも、俺の非難を無視し、ぴったりと抱きついてきた。
だから最後まで聞いてよね、と言うが、正直私はこれ以上の辛抱が効かない。
次私の地雷を踏んだらどうなることか、


「どんな口説き文句よりさあ……照れ屋で不器用な三成が恥ずかしさふりしぼって言ってくれる、『あいしてる』のほうが、わたしはいいなあ」

「っておもった」


――さて、別の地雷を踏んでしまった彼女をどうしてくれようか。
あいしてるっていってーとうるさく喚くこの女に嫌というほど口付けて、望みどおり存分に『愛して』やる。
どうせこの女は、明日には何も覚えてやいないんだろう。



(っくぁ〜〜あったまいたぁ〜い……)
(背伸びをするな丸見えだ)
(えっ?なに……ぎゃっ!裸!?……え?……………………………………………ちょっばかみつなりぃぃい!なんでわたしが酔ってるときにやっちゃうのよおおお!)
(貴様への罰だこの馬鹿女)
(わあああああ印つけすぎ!首!見える絶対見える!)
(その割には甘い可愛いらしい声で鳴いていたがな?)
(お願いしますもうそれ以上何も言わないでください)


2010/12/12/Sun

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