ときめき泥棒

謙也って優しいから、だからすごく残酷だよね!もういい!別れる!涙流されて逆上されて頬ひっぱたかれた。不意打ちでぶったたかれた頬がじんじん痛むのを自覚したころにはあいつは俺に背を向けて小走りに去っていた……えええ、ちょ、嘘やろー!なんなんそれ。なんちゅー理由!?え、しかもなんで俺、今、叩かれなあかんの!俺は周りの冷ややかな視線の中ただただ呆然とした……ほんの一週間前の話なんやけど。





「謙也が誰にでも優しいからいけない」
「……だからなんやそれ……」
「女の子はいつだってただ一人から真摯に愛されたいものなの。謙也は色んな子に優しいから、女の子は不安になるの。わかる?」
「そうなん……?」
「謙也の優しさのばらまきはもはや一種の浮気行為なの。後悔と反省と懺悔をしなさい」
「……うう……敵わんなぁ……」


こいつは俺の幼なじみ、聞いての通りストレートに言葉をぶつけてくる奴で、遠回しに言葉をオブラートに包むことが全くできない女や。だからこそ、1番相談しやすくて頼りになるんやけど。今はこいつん家の部屋で文句言わせていただいとる……うん……(上下関係はものっそいはっきりしとるんやわ……そうや俺が下や!)こいつは俺の話を半分聞いてないような感じで片手に炭酸ジュース持って漫画読んどる。……ちくしょう。

……でもな、わからん、ほんまわからん乙女心が!俺は……たしかに誰にでも優しいかもしれへんけど、1番大切にしとったんは彼女やったんやぞ。なのになんで、あないな振られ方されなあかんの。俺はこいつからついでのように差し出された炭酸ジュースにがっついて一気飲みした。……あーおさまらん!



「……もうええ!ちゃんと忘れる!」
「そう」
「ほんまあいつわけわからん……トラウマなりそ……」
「ふーん」
「自分ずいぶんそっけないな!」
「謙也と誰かの恋路とか、現代文のレポート以上に興味ない」
「なんか妙にリアリティあんなそれ……」



冷たいっちゅうかそっけないっちゅうか。あからさまに無関心な態度やわ。……こいつやってまぁそこそこかわええのに、かわいくおらんともったいないでー。そういやこいつは浮いた話、なんかないんかなぁ。あんま聞いたことあらへんけど。相変わらず漫画を読み続けるこいつに無心に言葉を投げかけてみた。



「お前はなんかないん?なんかそういう、浮いた話」
「……なんもないよ」



ぱら、と漫画を閉じてこいつはにっこりと笑った。……え、なに、なんなのこいつ……いきなりどうした。今のどの要素に気をよくしてんねん!こ、こわ。素直にこわい。



「……まぁお前生意気やもんなー」
「阿保馬鹿、スピード馬鹿」
「ほらな!そないやと、誰も貰ってくれへんぞー」
「……じゃあ謙也が貰ってくれる?」
「え、うおっ」



すたすたと近づいてきたこいつに胸倉掴まれてぐいっと引き寄せられた。紙切れ一枚入るかくらいの至近距離までこいつの顔が近づいて、驚いて後ろに反射で下がろうとしたけど、その前に

くちびるでくちびるをふさがれた。

―――――………え。ええ、え。えええええええええ!!!!!!!な、なんやこれ、え、えっ事故!!??じっ、じ、じ事故かこれは!

動揺する俺なんか気にしないで、唇を離しても俺の肩に腕を置いて、俺の目を食い入るように見てくる。目が離せない。無理、やって、こんなきれーな目……あれ、こんなに女やったっけ、こいつ……急にドキドキする心臓がうるさい。やめろ。



「責任とって」
「はっ……!?」
「じれったくってついキスしちゃったじゃない」
「いっ、い、今のは、俺の責任、と、ちゃうやろ……!」
「言わせるの?私に?最後まで?ウソでしょ」



はぁぁ〜〜〜。とおおっきな溜息つかれた。……ちゃうちゃう!なんでお前がそんな偉そうなん!今の絶対俺が被害者やん!そうやんか!俺今絶対顔真っ赤や、あつ、あっつー……!手うちわで冷やしてみるけどおっつかん。こいつはめんどくさそうに頭かいて(だからなんでそんな偉そうなん……)、でも次ににっこり笑って、俺の頬を両手で挟んで、



「謙也と私の恋路に興味はあるよ。わたし、謙也だいすき。愛してるかも。謙也が誰がのものになるのもうみてらんない。わたしのになって」


すんません、いろいろ奪われました。







(ほんまこいつ……指名手配やぁぁぁ……)(は?)

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