貪欲

月刊プロテニスで、『今をときめく若手プレイヤー!高校生テニス界特集』が組まれていたのを、その号の発売五日前、友人から聞いた。高校生テニス特集なんて言っているけど、これはきっと立海大付属高特集に近いはず。つい最近、立海大付属高は関東地区冬季大会を優勝したばかりだ。これで四連覇。快進撃を続ける彼等に焦点をあてたインタビューなんてめずらしくない。彼等の内から未来のプロテニスプレイヤーが誕生するかもしれないからだ。ただ、私として、面白くないことがひとつ。彼がちょっとしたアイドル並に騒がれてしまうこと。


「今日も部室にきてた、ファンレター」
「そうか、あとで見ておく」
「…………………蓮二の分は32通だねーうんー昨日より6ポイントダウンだーあははは」
「……なんだ、刺々しいな」


ファンレターってなんだ、ファンレターって。意味わかんない。蓮二は芸能人じゃないっつーの。他の人らも、たまに熱狂的なファンから部活帰りに後つけられたり、私生活を盗撮されることなんてざらじゃないらしい。まぁ、それはさすがに度を越えていると思うのでやめていただきたいが、ファンレターを貰ったり、応援の声をかけられるのは、素直に選手の力になる場合もあるから別に構わないと思う、他人の場合。が、蓮二が、蓮二がファンレター貰ったり騒がれたりするのは全くもって我慢ならない。彼は優しいから、応援の声はちゃんと聞くし、ファンレターまで読んであげちゃう。そんなことなんかしなくていいのに。(さっきと矛盾してるけど)他の女の子なんて、構わなくていいのに。蓮二の律儀で誠実なところがすごく好きだけど、たまに、仁王くんのようなファンレターを片っ端からごみ箱に放り投げるほどの適当さがあってもいいのに、とおもう。そして、なんでファンレターの受け取りがマネージャーの仕事なんだろう、とおもう。私がマネージャーだからと、私にファンレターを預けてくるから、自然と受け取り人になってしまった。おい、本人に渡せよ、とツッコミいれてもお構いない。ファンとはなんて勝手なのだろう。ただの自己満足じゃないか。


「拗ねてるのか」
「……しらない」
「可愛いやつだ」
「うるさい」


しりたくない。彼がどれほど人気なのか、彼がどれだけ女の子の視線を集めているのか、彼がどれくらい告白されているのかも。彼が有名になっていくこと、彼の強さが知られていくのは、嬉しかったはずなのに、今はそんなことなくって、なんか、そんな自分が醜い気がして落ち込む。はぁ。


「おいで」
「……………………は?」
「おいで」


なにがおいでだ、両手広げんな私がそこに行くとでも……………………………しょ、しょうがない、行ってあげても、いいかな、うん、ああ、素直じゃない。わかってる。両手を広げ、意地悪そうに微笑するあいつの頭をぺちっと叩き、そっと胸の中に飛び込んだ。


「もっと甘えてもいいんだぞ」
「……やだ、すっごく我が儘になっちゃうんだもん」
「別にいい」
「よくないもん……」
「そうか、ならば逆を言おう、俺は甘えてほしい」


蓮二はとてもスマートな男なので、発する言葉にソツがない。なんとも憎たらしい男だ。意地っ張りな私を甘やかす言葉を知っている。いつもそうして宥められ、結局彼の思い通り。私の額の髪をかきわけて、くちづけを落とすと、もう私にトドメを刺すのには十分なのだ、ああ私って単純。


「ファ……」
「ふぁ?」
「……ファンレターなんて、もらってほしくない」
「ああ」
「他の女の子なんて、放っておけばいい」
「ああ、そうする」
「蓮二には私だけでいい」


私と蓮二だけの世界なんて、そんな重たいことは望んでないけど。ただ、つねに、世界中の女の子の中で、私が一番ならいい。私を愛してくれるならそれだけで……って、あれ、これも、かなり重たいのではないだろうか……?


「うー」
「どうした?」
「ごめん、う、うざいよね、これは」
「いや、そんなことはない」
「だって……」
「うれしいぞ」


くん、と匂いを嗅ぐように、蓮二の高く筋の通った鼻が私の頬をなでて、形の整った薄い桜色の唇が私の首筋に触れた。体が跳ねて、蓮二から反射で逃れようとしたけれど、細い上に筋肉のある両腕にがんじがらめにされる。そのまま熱い舌で首筋をなめあげられるとそれだけで、わたしはどこかに飛んで行きそうになった。わっ、ちょっ、やめ!やめ、て、ください!


「蓮二!」
「ああ、すまない、我を忘れた」
「わ……!?」
「かわいい、好きだ」


にこにこと上機嫌な蓮二が不思議で堪らないが、好きの言葉だけでもっと上機嫌になれるわたしのほうが、もっと不思議で単純なのだと、蓮二の腕の中でぼんやりと思う。つまり、私と蓮二が愛し合えるというのなら、困難などない。






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