午後のあいしかた

携帯なんていらない。携帯があるからいけないんだ。不安になるのももどかしくなるのも変なこと考えちゃうのも一点に捕われるのもきっと携帯のせいだ。にぎってた携帯をベットに放り投げた。着信ゼロメールゼロ、まだあいつからの連絡はこない。一体何をしてるんだあのバカヤローはこのあたしを待たせるなんていい度胸してんじゃないの。




「アドレス削除してやんぞーばかー」




高校を卒業してあいつが東海の大学に進学しちゃってしかも寮生活始めちゃったのは2年前のはなしで、ほんとあいつは卒業式の数日前までそのことずっと黙ってて、告げられたときは本気で腹立って一発殴ってやった。そんときの右の拳は今だに痛む気がする。それから数日は喧嘩しっぱなしだったけど、この優しく寛容なあたしが許してやって見事笑顔で送り出してやった。わたしちょーやさしくない?ちょーすてきよね、まったくあいつもこんな可愛くて性格いい彼女持って幸せだっつーの。で、あいつが寮生活始めてから半年くらいはメールも電話も頻繁にして密に連絡とりあっていたけれど、徐々に徐々にその量も減って今や完全に音信不通。メールしてんのに返信来ないし電話しても出やしないしかけ直してもこない。これってあたし何、フラれたんですか。自然消滅プラグ?向こうで彼女作っちゃったとかそういうオチは勘弁なんですけど。え、ちょっとジョークのつもりなんだけど自分で言ってて怖くなってきた。あいつはそんな酷い男じゃない。黙ってあたしを放置してそんなことするやつじゃないできるやつじゃない。あっちで好きなひとができたにしても……できたにしても、ね、例え例え。ごほん、できたとしても、あたしとのことちゃんと終わらせるという手順を踏むやつだって。だからそんなことない……フォローできてない自分……やっばい元気でなーい。

まったくあたしはこの2年間男っ気ゼロで過ごしてきたというのに。やましいことなど何一つ無いというのに。あんたは一体何してんのよー。可愛い女の子とうはうはかよ……笑えねーよ!あいつ、無駄にモテるから不安。へらへらしてるくせに。なよっちいくせに。でもなんか男気あるからムカつく。そんなところに惚れちゃったあたしったらほんと……見る目あるよねぇ。放り出した携帯を見る。その近くにある写真立てに目が行く。最後にふたりで遊園地に出かけたときの写真。近くに歩いていたひとに撮影を頼んで観覧車をバックにツーショットを撮ってもらった。ぴったり寄り添って満面の笑みのあたしと、ソフトクリーム口につけて同じく満面の笑みのあいつ。幸せに満ちているそれを見ると、視界が涙で滲む。




「だめだめだめ泣くな」




頬をぺちぺちと叩いて気を取り直す。とりあえずお風呂。お風呂入ろう。棚からパジャマと下着をだして脱衣所に行く。頭をくしゃくしゃにかいた。もうどうしろっていうのよ。もう諦めるしかないっていうの?なんにもしないうちに?わたし、全然あいつのこと好きなんですけど。諦めるなんて考えられないんですけど。……ぐしゃぐしゃに考え込んでこんでるっていうのに煩いななんだよインターホン!今ならどんな些細なことにでさえ血管ぶち切れてやるわよ全く、




「はいどちらさま!」




はにかんだ笑顔が見えた。それが誰だが理解した瞬間、あたしは封印していた右腕の拳を振り上げてそいつをぶん殴った。ふん、借りは返したわよ。






(痛いやろ何すんねん!)(うっさいあたしの家の敷居をまたぐな薄情者!連絡せずにいきなりやってくんじゃないわよ!)(や、やって驚かせたかってん)(散々メールも電話もしたじゃんなんで折り返してこないのよ)(事情があったんや!)(何よ事情って)(とりあえず2年終わったときにトップクラスの成績取ったら大阪帰ってきてもええってそれまで帰ってくんなっていう親父との男同士の約束があったんや!)(なにそれ)(親父は俺を立派な医者にさせたい思っとるし俺かて立派な医者になりたい思てたからそれ守ろう思て)(……連絡してこなかったのは、勉強が忙しかったからってこと?)(どうしても大阪帰りたかったんや、やから娯楽全部絶って必死に勉強したんやで)(それで、)(おう、学年6位や!すごいやろ!)(泣いてやる謙也のあほ)(な、な、なんで泣くん!)(浮気してると思っててごめんなさいー!)(えええ)(自然消滅しちゃったのかと思ってごめんなさいー!)(えええええ)(謙也愛してるから別れないでー!)(……あたりまえやろー)





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