俺は来ないほうがよかったのかもしれないと今更になって思った。さっきから力いっぱい動かしている腕と足は限界を訴え始めている。肺も痛い。
(俺はただ、サッカーしにきただけなのに!)
そう思っても仕方がない。大きな(寧ろ世界選抜予選だが)大会に来れば会ってしまう可能性はあったのだ。ただこんなにバカらしいことになるとは予想していなかったが、話し掛けられることくらい覚悟しておくべきだった。もう10分以上走っているが後ろから聞こえる足音はつかず離れず一定の距離をあけて追ってくる。

「明王くんまってよ、なんで逃げるのー?」

ちょっとお話するだけだよと言いながら走ってくるのは元雷門、現白恋のストライカーである吹雪だ。少しずつ重くなる俺の足を嘲笑うかのような軽やかな足音が聞こえる。手を抜いているのは一目瞭然だ。

「ついてくんじゃねえ!」
「えーつれないなあ。あ」

吹雪が何かに気を取られた隙に奴をまくべく角を曲がる。無茶苦茶に会場内を逃げればあいつもわからなくなるだろうという淡い期待を胸に抱いて駆けた。


***


揺れる髪、あがる息、前へ進む足。どれもが懐かしく感じられて足を止めることが出来なかった。あの埠頭で会ったときから今日までさほど間が空いていたわけではないのだが、宇宙人と戦う日々はその感覚も麻痺させていたのかもしれない。
前を走る明王は自分が相当苦手なようで、まるで吹雪を拒否するかのように立ち止まる気配を見せない。しかしこれこそ自分が求めていた明王そのものであるため笑みは深くなるばかりである。明王くん気づかないのかな、その君の行動が僕を喜ばせてるんだって。前をいく明王と同じように手足を動かしながらにたりと笑った。さて追いついたら何をしてやろうかと当たりを見回すと、見慣れたチームメイトが目に入る。ああ、これは良い。風丸!と手を振って呼べば青髪を揺らしてこちらに顔を向ける彼。ちょっと追いかけっこを中断して風丸に近寄る。
「風丸、ちょっと貸して欲しいものがあるんだけど…」
「ああいいぜ」

それ返さなくていいからなと言う彼の笑顔は清々しいものだった。冬の空みたいだと言えばありがとうと帰ってくる声。貸してくれた物(実質、くれたのだけど)を握りしめながらありがとうと礼を言って再び走りはじめた。もう明王の姿は見えないが、感覚やらを総動員して彼を探す。昔からそれなりにこういうことは得意なのだ。
なんとなく気になり、立ち止まって物影をすうっとのぞく。途端気持ち悪いくらいに口端がつり上がるのがわかった。薄暗い影に入って息を整えている人物の動きが止まり、ゆっくりとこちらを振り返る…。


「明王くん、みーつけた」










その後、笑顔の吹雪に腕をがっちりホールドされ髪を結ばれた、ぐったりした不動が見られたそうだ。




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