陽だまりと花
暖かい陽気に包まれた昼下がり。
私とシキくん以外誰も居ない悪魔ハウスのリビングは、お日様の光でいっぱいになっていた。
「いい天気だね〜」
シキくんとおうちデート...といいつつ、毎週休日はこんな風に過ごしているような気がするから、おうちデートとは最早呼べないのかもしれないけど。
二人で広々としたリビングに寝転がりながら、暖かい光に身体を預ける。
向かい合ってお互いを確認しあうように、たまに口付ける行為がとてつもなく心地良い。
「そういえば、カケルさん達っていつ帰ってくるんだっけ?」
「よる」
「あれ?
みんな仕事なんだったっけ?」
「ハルヒトさん以外はみんな、しごと」
そういえば昨日の夜、ハルヒトさんはケロちゃんと一緒にレインの家に泊まるとか言ってたような...。
そんなものすごく最近の出来事さえもうろ覚えになるくらい暖かい陽だまりの中。
ふと、部屋の中に小さな花びらが舞い込んできた。
「ん?
桜?...じゃないな、でも可愛い」
フローリングに舞い落ちたソレを摘み上げると、シキくんの視線がこちらに投げられているのに気付く。
「?シキくん?」
シキくんは無言で私の方へ手を伸ばすと、羽根のような柔らかさで前髪を撫でた。
その瞬間、私の顔元に摘み上げた花びらと同じものがふわりと落ちる。
どうやら私の髪にも花びらが舞い落ちていたようだ。
「ついてた」
お日様の光でいつも以上に輝く紫の瞳と、普段はなかなか見ることの出来ない柔らかな笑顔で微笑む彼に胸を高鳴らす。
単純だけどこういう瞬間、とても強く幸せを感じてしまう。
同時に彼への愛情が自分の中で大きくなるのが分かる。
シキくんも同じ気持ちだったら嬉しいな、なんて考えながら一人でニヤついていると、いつものシキくんが突然顔を出す。
「変なかお」
「なっ...!」
「莢花のかお、ニヤニヤしててマヌケ」
「な、何もそこまで!」
「なに考えてた?」
「え...」
突然のシキくんらしくない質問に顔を赤らめていると、彼は少し身体を寄せて啄ばむように額にキスを落とした。
「言って」
「な、何を...」
「莢花が、なに考えてたのか」
たまに見せるこの強引さが好きだなんて、とてもじゃないけど口には出来ない。
恥ずかしさを隠すように私は徐に身体を起き上がらせ、花びらの舞い込んで来た窓の方へ歩む。
庭を見ると、風に乗って何処からともなくたくさんの花びらが降り注いでいるのが目に映った。
「わ!すごい!!」
思わず歓声を上げた私を不思議そうに見ると、シキくんも身体を起こしてそっとガラス越しの光景に目を向ける。
「...花?」
悪魔界ではこういった光景は珍しいのか、首を傾げながらじっとソレを見つめるシキ君がとても可愛らしい。
ゆっくりと瞬きをしながら視線を私へとずらす彼と目があった瞬間、どちらからともなく柔らかく唇を重ねた。
シキ君は後ろから優しく抱きしめてくれると、その顔を私のうなじ辺りへと埋める。
「花のにおい」
思いの外、長く立っていたのだろうか。
花の香りに包まれていたようで、鼻先を近づけて髪を梳くように動くシキくんの動作がくすぐったい。
「ふふっ、なあに?シキくん」
身を少しよじりながら後ろを向くと、眼鏡の奥のアメジストに捕まる。
鼻先と鼻先で軽く触れ合った後、羽根のように軽いキス。
何度もキスを交わすたびに音が生まれる口付けに身体が熱くなるのが分かる。
徐々に深くなり息が苦しくなった頃、私は小さな喘ぎと共に咄嗟にシキ君の服をギュッと握った。
「...は、ぁ」
リップ音と呼吸音がリビングに小さく響く。
シキ君は私の頬にキスをすると、私の首元へ顔を埋めて深く空気を吸い込む。
「あったかい」
そう言いながら、シキ君は眠りに落ちる時のように体重をかけた。
私は優しく彼の背中に腕を回す。
普段は低い彼の体温もこの陽だまりの中で温まったのか、心地の良い温度を放っている。
いつの間にか開かれた窓からはたくさんの花びらが入り込み、私達の足元にはキラキラと太陽光で輝く花の絨毯が広がっていた。
「莢花...」
囁くように耳元で響く声と、風で緩やかに靡くカーテンに包まれる。
ゆっくりと瞼を閉じて、私達は静かなリビングでそっと小さなキスをした。