風恋文
「天気良すぎとちゃう?」
昼休み。
気晴らしに会社の屋上に出てみたら、ひょっこりとレインが現れた。
翼を広げ、柵を飛び越えて来たものだからビックリしたのは言うまでもない。
誰かに見られていなかったのが幸いというもの。
カラカラと日の光溢れる空を仰いで、レインは来ていた白いスーツを脱ぐと大きく背を伸ばす。
私は、昼食で食べ終えた弁当包みを片手に彼を見ていた。
「行きなり来たからビックリしちゃったよ。
連絡くれればよかったのに」
「アホ。
サプライズやからええんやろ?」
屈託がなくニカッと笑うこの笑顔が、私のお気に入りだ。
広大な青空では大きな雲が流れ、髪をすくうような柔らかな風が吹く。
私は少し乱れた髪を耳にかけるとレインの背中目掛けて駆け寄り、大きくしがみついた。
「うわっ!」
体制を崩して二三歩前へと進む彼は、その原因となった私へと見下ろすように振り向く。
シャツを掴み、ぎゅっと彼を抱き締める私の手を、レインは小さくパシッと叩いた。
「痛っ」
「痛ないやろ、こんなん。
てゆーか何してんねん!
もう少しで転けるとこやったわっ」
全く…と呆れたように小さな悪態をつくけれど、シャツを掴んでいた私の左手をそのまま取り、唇を押し当てる。
口付けされた手の甲から愛しさが溢れ出し、私はそっと顔を赤らめた。
それから少しの沈黙の後、心地好い静かな空間の中でふと空を見上げる。
ゆっくり流れる雲と、ビルの下の方で響く喧騒、少し強い陽射しも温かく私たちを包んだ。
このまま君ととけたい、そんな気持ちにさえなれるほど青い青い世界。
同じ空の下。
喜びや悲しみを共に感じる幸せを乗せ、君に届けたい。
「レイン…大好き」
小さく放つのと同時に、大きな音を立てて風が横切る。
「何か言うた?」とこちらを向くレインに、私は首を横に振った。
なんでもないと言う私に、彼は少し申し訳なさそうに眉を下げた。
「すまん、風で聞こえんかったわ」
そう言いながら、レインは一つ伸びをして深く息を吐く。
小さな声で呟いた私の声は、どうやら大きな風に持って行かれてしまったようだ。
静かに離れたレインの後を追って隣にピタリとつくと、視線は未だ先を見つめたまま、彼は何か言いたげな瞳を湛えて口を開いた。
「…なんや、もう少しちゃんと聞きたかったんやけど」
いつになく真剣で整った声に誘われ、思わずレインを見上げた。
風が吹く度に靡く彼の黒髪に光があたる。
綺麗な口元が開くのを、私はただ見ていた。
「俺も、大好きやで」
そう言いうと、レインは私の頭をクシャクシャと撫でる。
頬を染めながら咎める私に、彼は子供のように悪戯っぽく微笑んだ。