しーちゃんと一緒
- memo novel/Jun,xx 2011 -




「シキくん、お腹すかない?」



珍しいことに私とシキ君以外の住人は、それぞれの事情で悪魔ハウスを出払っていた。
夜まで帰ってこないかも知れないと言っていたけれど、まさかメグルくんまで帰ってこないとは…。


気だるくソファーに掛けながらテレビを見るシキくんの隣に私も腰を下ろす。
にこやかに返答を待っていると、微動だにしない彼は一言小さな声で呟いた。



「…すいた」



けど、食べるの面倒。
と言わんばかりの無表情な彼にクスっと笑みを溢す。
私は少し考えてから、一つ思い付きの提案を口にした。



「さっきね、冷蔵庫見たら何もなかったの。
多分、メグルくん朝から忙しそうにしてたから買い忘れたと思うんだ。

だから、一緒にコンビニ行かない?」



コンビニと聞いて彼が思い浮かべることと言えば…まぁ、アレくらいだと思うけど…。
とにかく夕食にありつけないのは私も困る。


お馴染みの「メンドくさい」か「ヤダ」が出るかと覚悟をしていたが、わりとあっさり承諾してくれたシキくん。

空腹に勝てない人間の性を抱え、善は急げと私はシキくんをつれて、月がやんわりと輝く夜の町へと足を運んだ。




人通りのない夜道を、私とシキくんは並んで歩く。
頭上では時折雲に隠れながらも、月が柔らかな光を注ぎ続けていた。



「シキくん…暑くない?」



隣を無言で歩く彼を見て、私は一言ポツリと呟く。
と言うのも、夏が近いこの季節に厚手のカーディガンを羽織っている事など、どうみてもおかしいからだ。

彼は一度こちらを向くと、自身の着ているカーディガンへと目を落とす。



「別に、あつくない」



本当にそうなのかと不思議に思った私は、少しシキくんをじーっと見つめた後、彼の手を握った。
やせ我慢なのかと思っていたが、ひんやりとした手から伝わる体温で妙に納得してしまう。
そう言えば、彼は極度の低体温だった。


たまに男性という事を忘れてしまう程の白い肌と細い指が街路灯に照らされる。
女の私より綺麗なのではないか、そんな事を思って彼の手を弄んでいると、ふいに彼の手がピクリと動いた。

少し見上げてシキくんを見ると、怪訝そうな表情の彼と目が合う。



「…くすぐったい」



緩やかに手が離れると、今度は彼が私の手を取った。
ひんやりした感触が再び手に甦る。

ムニムニと人の手を無表情で弄る彼に、私はクスりと一つ笑みを溢した。



「ははっ。
シキくん、くすぐったいよー」



握ったり開いたりしながら弄る彼の手とじゃれ合う。
ふと隣を見ると、珍しく睫毛を伏せて小さく笑うシキくんが目に飛び込んできた。



「おかえし」


「ええっ。
ズルいよー、シキくんの方がいっぱいくすぐったじゃん」


「俺のほうが、くすぐったかった」


「うそ。私、そんなに触ってないよ?」



先ほどから随分近くでじゃれ合うものだから、時折彼の髪が私の鼻や頬を擽る。
彼の香りが近くにあるというだけで、不思議とこんなにも安心感を抱いてしまう私は、相当なまでに彼を愛してしまっているのだろう。



「コンビニ行ったら何買おっか」


「…食玩」


「こら、シキくん。
私たち夜食買いに来たんじゃないの?」



私の言葉に少しつまらなそうな顔をした後、彼は弄んでいた私の手に指を絡ませて下へと下ろす。

冷たい体温が指の間から伝わると、シキくんは小さく言葉を放った。



「…おにぎり」


「おにぎり?
あ。シーチキンとか?」


「ちがう」


「ちがうの?じゃあ、何がいい?」


「…おかか」


「…………おかか、ね」



最近、おかかってあまり見ないな…などと平和な思考を巡らせる。

指から伝う体温に愛しさを覚えて、私は時折隣の彼へと寄り添いながら夜道を歩いた。







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