04
『へぇ、よかったじゃん』
「よかったけど、よかったんだけど」

仕事の帰り道、歩きながら美愛に先日の件を報告がてら電話をする。
最初宮選手の彼女友達になったと伝えた時、なんもされてないかとか心配されたけど、話していくうちに敵には敵として断定するも友人の括りにはいってしまえば、優しいひとだね。よかったね。と言ってくれた。
高校からのよしみであるが故、佐久早さんのことも他での出来事もすぐに美愛に話してしまう。

『で?どうすんの?』
「なにが?」
『はぁ?』
「え、怖い怖い。」

『あの井闥山のサクサだよ?そんなに距離詰めて今後どうなりたいかってはなしだよ。』

今後。
漠然としたような確信をつくような言葉。
今すぐにどうこうなる。というのは正直ない。
好きは好きでもやはり高校生の頃から追っている人で、ただの憧れの方が強い。と思っている
ただすこし、前よりもちょっとだけ、好きという気持ちが強く出ているだけ。

「あ、佐久早さん珍しくインスタあげてる」
『へー』
「古森さんとの写真だ。」

話題を変えようとするものの結局思いつくのは佐久早さんの話。
久々である本日分更新の写真とストーリーはイヤイヤそうに写真に写る佐久早さんと楽しそうに写る古森さん。
相反するような二人は従兄弟という関係で二人して井闥山でレギュラーで輝かしくVリーグにデビューをしているのだ。

「やっぱり、そーゆー風になりたいとかはない
…かな、」
『…あっそ。なまえがそういうならいいけど、スキャンダルでてやっぱりちゃんと好きだった。は無しね』
「ふふふ…」

むかしから一歩下がって自分を後回しにするという行為をずっとしてきたからか人にすぐ何かを譲ったり、渡したり。
きっと美愛はわたしが佐久早さんのことが好きな人にそれをやりかねないと思っているのだろう。
もしも、芽生え始めたこの感情が大きくなることがあって、もし同じ境遇の人が現れたらわからないけれど、それでもきっと自分なんか佐久早さんの隣にいても似合わない、と思ってしまう。
投稿されたインスタのストーリーに今日もお疲れ様です。久々に投稿見れて嬉しかったです。とおくり、美愛との会話に花を咲かせる。
美愛の新しい彼氏の話だとか、職場の話だとか、少しの私の話だとか。

会社を出てすぐ電話をかけてかれこれ30分弱のところにあるアパート。
一人暮らしをしたくて、実家からも通えるというのに会社の近くのアパートを借りた。
一人暮らしをしてのメリットは時間に融通が効きやすい、デメリットはお金が貯まらないこと。
正直これが一番の死活問題である。あとは料理が面倒だとか掃除が面倒だとか、そう言った諸々。

ガチャっという扉の音に美愛は気づいたようでお疲れ様。家着いたなら一旦切るね。と言って通話を切った。扉についているキーロックをガチャリと閉めてリビングに向かう。
そのままケータイをテーブルに、荷物はハンガーラックにかけてお風呂場に向かう。
リビングの四隅を見てやればすぐにいろんなところに行ってしまうから、常に表に出ているキャリーケース。
今年はあとどれくらいこのキャリーゲーをもってちゃんと佐久早さんと話せるだろうか。、自分で取ったチケットとなまえ2ちゃんからもらったチケット。
少なくはないこのチケットたちの分だけ佐久早さんに会いに行ける。
会いたい。好きなのかな?恋なのか、それとも親愛なのか。

「…お風呂入ろう」

考えたってすぐに答えなんて出てきたりしない。
でも芽生えた小さな双葉のようなこの気持ちはきっと今ならこの感情は押し殺せるから。
だから、そっと目を閉じて蓋を閉じてしまえ。


リビングに放置したケータイがブーっとSNSの通知を鳴らして画面を明るくするその表記に“佐久早 聖臣”と記載があり送ったDMへの返事が22時前に届くなんて想像もせずそのまま私は湯船へと向かった。





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