03
無言の時間、冬の寒さが肌を指す。
少しだけこの空気が気まずい。
なまえ2さんの家からホテルまで約15分歩けばわたしが泊まる予定のホテル、佐久早さんは私の少し前を歩きつつ私に歩調を合わしてくれる。

「…」

宮選手を送ってきたついでとはいえ、わざわざ送ってもらうのは申し訳ない。
まだ歩いて5分程度しか経っていない。今伝えれば遠回りかもしれない道を回避できるはずだ。

「佐久早さん、ここでいいですよ。遠回りになったりとかしません?」
「いい、べつに遠回りしてない。」
「いやでもお疲れだと思うし」

くどくどと御託を並べる。あぁなんて悲しいんだろう、言い訳なんてつけなくてもいいのに、本当はこのまま、なんて思ったりする気持ちもあるくせに。そんな悶々とする気持ちを遮って佐久早さんは声を出した。

「前にも言ったけど、嫌なことは嫌っていう。今日も別に帰り道だし送ってくってだけ。あんたがそこまで気にかけるほど疲れてねぇ。」
「あ、はい…」

初めてちゃんとサインをお願いしたあの日。忘れないセリフ。
あの日わたしがどれほどに喜んだかこの人はきっと知りもしないはずなのだ。SNSにも書き込まずわたしの日記にだけ記した。
立ち止まった佐久早さんはこの帰り道ではじめて私の方に顔を向けて話し始めた。

「宮の彼女に頼まれたってのは勿論あるけど、あんたなら別に送って行ってもいいかと思う対象にはいる。高校の時のから知ってるし」
「そんな前からバレてたんですね…」
「…まぁ、そんなところ」

腑に落ちていないような顔をしているのが少し見えたがきっと気のせいだ。
横に並べば?という佐久早さんからの声かけを流石にVリーグで大型ルーキーだと名前が有名なこの人の横に並ぶわけにはと丁重にお断りをした。

「あんたのホテルここだろ」
「ありがとうございます。夜遅いのにここまで送ってくださって」
「別にいい。」
「また、試合行きますね」
「…あいつらみたいに騒がなければ」

あいつらとはきっとなまえ2さんたちのことだろうか。思わずふふっと声が出てしまう。
その声を拾ったのか佐久早さんは怪訝そうな顔をして再びこちらを見る。
何を笑っているんだ。俺は本気で言っていると目で語っていて、目は口ほどにものを言うと言うけれどこれはまさにだな。なんておもったりする。

「ふふ、なまえ2さんたちそんなに声響きますか?」
「あいつがいる日の宮がいつにも増してうるせぇ。」

最初より回るようになった口で話し、ふと時計を見れば23:58もうすぐ24時を回ってしまう。

「佐久早さん、12時回っちゃいます。また次試合見に行きますね。わざわざありがとうございました」
「ん、」

同じく時計に目をやった佐久早さんはわたしと同じように時計に目をやるとわたしの声かけに小さく返事をしてホテルの入り口から立ち去った。
ケータイを見ればきっとでたあとすぐを写真に収めたのであろうなまえ2さんからの写真が送られてきておりホテルの部屋に帰ってからすぐに保存をした。

次の試合はいついけるっけな、部屋について手帳と睨めっこをしながら明日東京へ戻るための準備をそっちのけにして布団へと潜り込んだ。




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