新しい春にうかれて

なまえちゃんと付き合い始めて早半年。
ぶっちゃけめっちゃ会いたい。
本音を言えば毎日会いたい。

「おい、ツム顔どうにかせえ。辛気臭い」
「ええやんか、なまえちゃんに会いたい」


また、その話かと呆れ顔をした治はおそらくもう半分くらいしか話を聞いていない。
お互いが休みの日、会ったりしているがなかなか数があるものでもない。

「なまえちゃん今日休みやったって、でなまた夢の国行っとった…」
「友達の付き添いかなんかやろ」
「いややー、新しいやつ見つけたから俺と別れますとか言われたら俺病む。」
「お前はどこぞのオタクか」
「しゃあないやんか!あんなに露骨にほかの子と別扱いしたってなかなか一歩前進めんかったんやぞ!」


付き合い始める前、なまえちゃんが試合に来るようになって何回か顔を合わせたあと。それは小さな気づきから彼女に惹かれ始めた。
最初のうちは、一歩一歩自分が許される距離を見計らい、欲しいプレゼント、写真の撮り方、SNSのDMのやりとり、きっと今まで推しにしていたであろうその距離の近づけかたを俺が壊すかのようにグッと距離を縮めた。
近くに選手がいれば自慢するかのように腰を掴んだし、飲み会の席が同じ店なら必ず彼女の席へ通った。
付き合うきっかけは完全にボロ出したかもしれんけど。

「なまえちゃんこっち来てくれへんやろか、一緒に住んでくれんやろか………」
「そーやなー」「棒読み!」「聞き飽きたわ」


「ま、こっちにきてもらうなら、向こうの仕事辞めなきゃ来れんけどな、なまえちゃん」

そこが大きな問題なのである。


***

「侑さん!」
「なまえちゃん、おはよお。今日もこっちきてくれてありがとう」
「交換て約束だからね。大阪、まだ土地勘わかんないし、たのしいよ」
「なまえちゃん、かわええなぁ」
「早く行こう!まずはどこから?」
「めし!」

東京から今日も来てくれた彼女のためにと最初はデートコースを考えたが、何回か重ねると彼女から考えなくていいよ、その日その場で決めようと案が出された。

「お好み焼きたべたーい、ねー侑さーん」
「わかった!わかったから、かわええ顔出さんで!」


なまえちゃんがこっちついて、飯食って、のんびり散歩して、俺んちに泊まって夜飯をなまえちゃんが作ってのんびりする。

だいたいのパターン、彼女を独り占めできる時間を増やしたいからと、家の中にいる時間が長くなる。
いつもリビングのテーブル横からキッチンと冷蔵庫を往復する彼女を盗み見る。
住み始めて最初のうちは母親が少し経ってからは治が使うだけで自分はあまり使わず電子レンジで加熱を代用してきた。
その姿はまるで籍を入れた後を想像させる。


「侑さん、夕飯つくるからお風呂入ってきてください?」
「ええなぁ」「侑さん、お湯冷めちゃいますよ?」
「なまえちゃんと一緒に住めたらこん感じやろうなぁ。ずっと一緒に居りたいなって思って…ん」

「はい?」「ッア」

思わずこぼれた本音が彼女の耳に入ったらしい。
これではまるでプロポーズのようなセリフだ。
少し黙りつつ、弁明しようと口を開くが出てくる言葉はあーやら、えっとやらどもるばかり。

「侑さんのおうちに私がいたらいいんですか?」
「えっとー、せやからあの」
「いていいんですか?」「ええです」

こう言う時の彼女は強い。付き合い始めて学んだことの一つ。言葉を濁しても直球に答えを出せとせがむ。

「前から考えててん。でも向こうで仕事あるやろうし、迷惑になるんやないか。でも向こうで新しいやつ見つけたらどないしようとか」
「新しいやつって?」「推しとか、彼氏的な」
「んなもん、侑さんしか勝たんっていっつも試合とかで言ってんのに」
「せやけど心配やねん」

顔も広い彼女はバレーボールの世界でも顔を広げつつある。男性ファンも多い界隈だ。俺がおるから早々声かけられるわけもないがたまに見かける遠目でみる目が気になってならないのだ。

「じゃあこっちきます?」
「いや、でも色々あるやろうし」
「仕事は確かにすぐは無理だろうけど、引っ越しなんて余裕ですよ。ちょうど更新もうすぐで」

だから、侑さんちに転がり込んでもいいですか?


そう綺麗な笑顔で笑う彼女は今日は俺より一枚上手でその質問に俺は首を縦に振るしかなかったのだ。


しばらくして俺が彼女宛の指輪を片手に試合に臨むのはそう遠くないお話。


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