恋≠恋

「やっぱり、角名がイチバンだなぁ」
「え、なに?他に比べる男いるの?」
「元カレ」
「そこと比べんのやめろ」


─ ひと目惚れを信じることよ。 ━

フランスの女優 サラ・ベルナールはそう後世に言葉を残した。
その時彼女がどう思ってこの言葉を発したかわからないがたしかに信じるものだと思った。


「一目惚れがこーんなに長い恋になるなんておもってなかったしね」
「ふーん」
「興味なさそうな顔しないでくれませんかー」
「あるある」
「うそこけ」


もう22歳、出会ったのは16歳。私が東京から兵庫へ越した時。
馴染んだ5月ごろにバレー部の練習試合の応援に行った時に一目惚れ。
試合にでる角名をみて周りは双子を見にきたと言うのに角名のことばかり聞いた。
そこからはもうアタックあるのみであれよあれよでこの男、角名倫太郎と付き合うことになったのだ。
正直角名が押し負けたと言っても過言ではない。
角名を好きになってもう6年、小学校行った分をこの男に恋をしている。
そう考えるとその前に好きだった人たちは年も持たずだった気がするな。もう顔思い出せないな。と思うばかり。
もしきっと角名と別れることになっても今後この人を忘れることはないし、どうなったって心のどこかで角名のことをすきて角名の面影を探して恋をするのだろう。

私の話を聞いてくれる人。
私が話を聞きたい人。
私を甘やかしてくれる人。
私が甘やかしたい人。
私のことがイチバン好きな人。


私が初めて本当に恋をした人。


きっと元カレも話を聞いてくれる人はもちろんいただろう。甘やかしてくれる人もいただろう。
話もきいてあげたし甘やかしましたと思うけれどやはりこの22年と言う歳月を生きてきて初めて親元を離れて一緒に暮らしたいと思うことがあるのはこの人だけだと思う。


「で、結局なに?」
「興味なさげだったから言いません」
「元カレと比べて俺がイチバンってなにがって聞いてんだけど」
「よりかからないでよ、重いんですけど」


俺の彼女がつめてぇ。と不貞腐れてつぶやくこの人はどんどんと私の方に体重をかけてくる。
言えるもんか。きっとこれが本当に恋をしたんだって実感したなんて。
今までの恋がまるでこの恋のための予行練習だったんじゃないかって思ってしまったなんて。


「ねぇ、なまえの作ったオムライス食べたい」
「ふふ、いいよ。ふわとろにする?」
「する」
「今日は甘えたな日?」
「そ。だから甘やかして」


いたずらを仕掛けるときの少年の様な顔をして私に料理をせがみ、私に自分を甘やかせと願いを乞う。
セットをしていない角名の頭をなで、立ちあがりたいからと彼を退けてキッチンへ立つ。
私が立てば隣で角名もキッチンに立つ。
最初はぎこちなかった料理ももうすでにお手の物。最初のうちはよく角名に笑われながら使っていたのを懐かしく思う。


「で、さっきのだけど」
「まだ言うの?それ。」
「きいてねぇもん」


よほど何が一番なのか気になるのか。隣で手伝いながら角名は聞いた。
大した話ではないが、聞いてもらうには、小恥ずかしい。


「うーん」
「言えないこと?」
「いや、恥ずかしいだけ」
「俺しかきかねぇじゃん」


だからだよ。と声を上げたいがそれは多分通じないであろう。
さすが選手というか、決めたことはやり遂げるしまぁ負けず嫌い。
元カレが昔これしてくれたんだよって話を高校の時にすれば次のデートで同じことをしてくれる。



「ねえ、なまえ」
「〜〜わかったよ!」


素直に諦めて話せば顔を赤くして照れてキッチンから逃亡される。
追いかけて感想を聞けば参りましたの一言。


そんなことをしていたからチキンライスは焦げるしその日甘やかすはずが気付けば甘やかされていた。


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