巡り逢いつつ

『外出た?』
「出たけど、みえんよ?スーパームーン」
『はは、だよね。俺も見えない』
「そっちは見えるもんかと思ったやんか」


今日は皆既月食らしく、お風呂から出れば急に恋人から電話がかかってきていて外に出ろとせかされた。
外に出ればどんよりとした天気でどう見ても雲が広がっている曇り空で月はぼんやりとしか見えなかった

「急に電話きたからびっくりしたわ」
『んー、たまにはしとこうかなって?』
「疑問を自分で持つなや」

ケラケラと笑いながら久々に電話越しの倫太郎の声に安堵する。
最後にあったのはいつだったか、1ヶ月か2ヶ月くらい前だった気がする。
会いたいとわがままを言えば来てくれるかというとそんなに優しくなあことを私自身昔から知っているが、昔は毎日会えていた。今はそうもいかない。相手はVリーガー私はしがない会社員。
どう転けても私はわがままを言えるほどできるやつじゃないのだ。


『ねぇ、明日休みでしょ?何時まで起きてられるの?』
「まぁ有休使えって怒られたし、休みだけど…まぁ今持ってるお酒があと2本だから、それを飲み切ったらかな」
『なまえ酒飲むの時間かかるししばらくヘーキかな』
「なんそれ。そんなかからんし!」
『いつもそのかんじだと2時間はかかるじゃん』

ケラケラと相手が笑い、すこし耳をすませば車の音がする。

「ねぇ、今運転しとる?車の音聞こえた」
『よくわかったね、そうだけど』
「ちゃんとスピーカーやろなせめて」
『当たり前じゃん』

どこに行くのだろうか、それとも帰り道だろうか?
帰り道には遅すぎるような時間だ。なにせいまは22:45過ぎ、いつもなら彼は自宅で寛いでいるはずの時間。どこかに向かうのだろう、その間の暇つぶしに付き合わされているのかと思えば久々の、電話にも納得がいった。


『なまえまだベランダいる?』
「おるよ。お空見上げながら、おさけのんどる」



『「下見てのんでくんない?」』



スピーカーとちゃんと耳から聞こえてくる本当の声。
今はここにいないはずの恋人の声。
慌てて缶を置き、ベランダを離れ、玄関を飛び出てその車の元へ向かえば手を広げて待っていてくれた。

どんっという勢いでぶつかればぐえっと上から声が聞こえてくる。
笑いながらいてぇよっと答えてくれるこの人がそばにいるという実感だけで寂しかった私はみたされるのである。



「夏目漱石がさ、ILoveYouを月が綺麗ですねって訳したじゃん」
「有名な話な。」「そ、俺、多分今日みたいな日に行ったと思うんだよね。」
「なんそれ。憶測?」
「憶測…なまえはなんで返す?」
「せやなぁ…… 巡り逢いつつ影を並べん
ってかえすなぁ」
「ずいぶん古風な返しだね」
「これめっちゃあつい返しやで。」



だって、いつでもあなたと抱きしめあいたいもの。
その言葉を胸に秘めて、今日は二人空のぼやけた月をみあげた。

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