華咲く金曜日

「むり、あのハゲ私のことなんだと思ってんの?」
「しらん、部下やろ」
「正解ですけど」

平日夜の金曜日、言わば華金。住んでる家の近くにあるおにぎり屋の中。お酒もあって、おにぎりも食べれるし憩いの場である。あとなにせ店主はイケメンだ。

「宮さーんおかわりぃ!」
「もうあかん。酔っ払い」
「明日休みだよ!許せ!」「許さん」

いつもより飲むスピード早いで。静かに茶を飲んどれ。というこの店、おにぎり宮という店の店主宮治。なんでも双子で片割れはプロのバレーボール選手だという。これまたしかも彼自身も高校までバレーをしていて有力選手だったというからなぜここでおにぎりを握るのか不思議で仕方ない。


「急に転勤決まって、家も探して、こっち来て、やたら引き継ぎ多くてしんどかったときに優しくしてくれた宮さんはどこへ…」
「ここにおるやろが。今度は肝臓の心配したってんねん。」
「やさ宮さんだったわ」

テーブルにお茶と頼んでいない豚汁が置かれてほらこれ飲んどけ。と言わんばかりに仁王立ちで上から見られる。

「これ頼んでないよ?」
「ええからのんどけサービスしたるわ」
「えーん、やさ宮さんだ」
「ずっとやさ宮さんやわ」

カウンターにある私が呑み倒したお酒のからの食器を全て回収して洗い場へと向かい洗い物をはじめる。
客は私一人。時間はすでに12時前と閉店時間を、オーバーしている。暖簾はすでに11時ごろに宮さんが閉まっているのを見たから人は入ってこないけれど。

「宮さーん」
「今度はなんや。めしか?酒はやらんぞ」
「お会計って言おうとしたんだよ。流石に帰る」
「およ、今日こそ泊まって来んかと思ったわ」
「泊まるかい!」
「ははっ、せやけど待っとき送ったるわ」

はい、これ勘定。と見せられた金額はあからさま金額が足りない。
なんかの値引きかな?と思いはじめた最初の頃とは違い最近はやたら綺麗な数字すぎて気づく。


「ねぇ、宮さん最近おもってたんだけど」
「なん?」
「お会計少なくない?異常に」
「んー、そないな事ないやろ」
「あるわ」

けらけらとばれたかー!という店主にこいつ本当に営業するかあるのかと疑問すら抱く。
正規金払うからちゃんと出してというても叶えてくれず結局は見せられた金額を支払うことになった。


「後、レジ閉めやしもう少し待っとってな。」
「はーい。」
「こっそり金を足そうとすんな。もう勘定終わっとるやろ」
「これはあれだよ、チップ」
「海外か」

いくらか足しにしてやろうと目論むのにちっとも受け取ってくれないこの店主はなにを考えているのやら。
宣伝か!?と聞けばもうそれはツム…双子の片割れがしているからもう大丈夫だという。

「次はちゃんと払わせてくださいね。」
「んー、考えとくわ」
「そこは回収しろよ!」
「やって」

こーしとったほうがなまえちゃん店に来てくれるやろ?


「は?」
「それに、うだうだサービスしとけば好きな女を合法でこの時間に送れるなんて最高やんか」
「は?ちょ、待って」
「さ、帰る支度し、送るわ」
「待って、聞いてない。ねぇ宮さん!!」

上着をきて店の鍵を持って自身の帰宅準備もどうやら終えた宮さんはすでに店の閉めている。


「聞いてないて、そら初めて言ったしなぁ」
「なんでこの人告白してんのにこんなのんびりしてんの…自分のことじゃないの…」
「やって、ふられる気せぇへんし」
「すごい自信…?」

突然立ち止まりキョトンという顔をして頭の上にはたくさんの疑問が並んでいる。
うーん、とうなったあとに自信ありげに告げられた一言。

「やって俺、なまえちゃん好きやし、こんなにしんどい時に支えてられんの俺だけやろ?」
「わぁ」

こんなうまい料理と優しさがある男逃したら後悔するでと言われ、それは確かにと頭で考える。

「まぁのんびり行こうや。いますぐ付き合いましょうなんていわん」
「いうと思った」
「言わんわ、でもせやな。来月ら辺には俺の彼女になってもらうで」
「え」
「せやから、本気でそろそろいくわって。ほら、ついたで。気をつけて階段登るんやで。」
「え、うん」
「おやすみ」「お、おやすみなさい」


優しく頭を撫でられて私が階段を登りきり、自室の扉をあけて部屋に入るところまでしっかり見届けた宮さんはそれを見てから帰っていった。
最後別れる寸前で言われた一言が私はずっと頭をぐるぐるしている。

「好きやで、本気で。やから少しづつ考えてな。またじゃあ月曜日店きてな。」


「だめだ、わからない。人を、好きになったの最後いつだ。」

すでに心臓がドキドキと早鐘をうつ感覚。最後の一言に自分がキュンとしたのは正直に頷こう。


「と、とりあえず、お酒のも…」


お酒で記憶がなくなるタイプでもないのにとりあえず酒に飲まれようと冷蔵庫をあけ東京の友人に電話をかける。

「げ、月曜日からどうしよう」


少し気になりはじめたお気に入りのお店の店主を思い浮かべてカシュッとレモンサワーの缶をあけた。


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