少し優しい愛の声

「聞いとらん!」
「えー、言ったよ。侑も来る?」
「え、行っていいやつなん?」
「もしかしたら行くかもとは言った。」

なまえ…!
と目を輝かせるのは宮侑、21歳。
MSBYブラックジャッカルに所属するセッターである。
いわば会社員である彼はたまたま今有休消化中である
もちろん私もそこに合わせて連休を作ったのだがたまたまそこに同級生からのお誘いがあったってだけである。

「日帰りだよ?いいの?」
「ええよ!東京やろー。サムに自慢したんねん」
「自慢することある…?」

中学時代まで東京にいた私は高校の入学と同時に兵庫にきた。
まぁあとはなんとなくおわかりかと思うが侑くん達と出会い、私はこの人でなしと言われるバレー一筋のこの男と付き合うことになったのだ。

「侑変なことしないでね。一応人でなしとは言ったけど」
「失礼なやつやな!」
「バレーバカだよとも言った」
「それも失礼やぞ。」

一応、侑は私たちの関係を公表しているが私はまだ大学3年生。
まわりに言ってなにがあるかも少し思ってしまい彼氏はいるというだけで止まっている。
もちろん高校の同級生は知っているし、侑の彼女はお前しか務まらんと言われることもある。
私はそんなことないと思っているけどこのわがまま大王に付き合うのも悪くないと思ってるのは事実である。

「じゃあ明日の新幹線取ってないから取って」
「え、なまえ取っとらんの?」
「侑どうするかわかんなかったから」
「なんやー!きて欲しいなら早よ言えやー!」
「あ、じゃあ一人分取るわ」
「あかーん!俺とる!」

この高校生のようなやりとりがまた、楽しいのである。

***

「え、なまえの彼氏めっちゃかっこいー!」
「人でなしだけどね」
「まて、お前の彼氏?バレーの宮侑…?」
「え、知ってる?」
「知ってるも何も選手じゃねぇか!」

「なまえー」
「はーい。そうそう一応選手。division1の」
「MSBYだろ…」
「せやで。」

名前を呼ばれたから向かおうと思えば向こうからこっちに歩いてきた侑はぬっと私をとらえて会話に混ざる。
一緒にいた男の子はッヒ!と声に出していて思わず私が笑ってしまった。

「笑うなよ!元々バレーしてたこっちとしてはただの有名人と会った気持ちだわ!」
「ほぼ毎日会ってるからなぁ、サインたかる?ねぇ、侑」
「こいつなまえの何?」
「知り合い」

そーゆーとこで嫉妬してないでほらサイン。と声をかければしぶしぶとサインをかく。一言なまえはやらんぞとつけて。

「宮選手から彼女とるとか俺烏滸がましすぎて出来ねぇっす」
「ほんま?言ったな?言質とったで?」
「なまえの彼氏すごいね…」
「高校の時からだよ」

と話していれば話に花が咲く。
既に結婚している子、彼氏と同棲している子、一人を謳歌している子。
さまざまだ。

「なまえあんま酒飲むなや。酔うで」
「ん?うん。もうソフドリにしてる」
「ん。明日どうする?」
「今日帰れたら出かけたいけど、」
「むりやろ、ビジホ探すわ」


言いたいことがわかるし伝わる。
とても心地よい関係。16からだからもう5年の付き合いである。
やはり侑は人一倍目立つ。金髪にあの高身長。
大体何を着ても様になるので余計に目立つ。
治もだけど、この双子ほんとに大体目立つから大変である。
今だって色目な同級生が侑を見ている。

すでにそばにいる侑にさらにグッと近づけばニヤリと広角をあげて笑われた。

「なんやー、なまえちゃんは嫉妬ですかー?」
「だめなの?」
「もちろんええよ。いっつも俺だけしとるからな」
「そんなことないし。いつも女の子に囲まれてるくせに」

すこしむくれれば頭を、優しく撫でてくれる。
昔からこれは変わらない。学生の頃から変わらぬ侑の優しさである。

「なぁ、かえろ?ホテル取ったし、2次会そもそも出る気ないやろ」
「うん、めんどくさい」
「高校のさえそんなんやからこんなことやと思とった」

ほな、この嫉妬深いお姫さん怒らせたら頭上がらんから帰るな。と侑が私の代わりに幹事につたえ会場を後にする。

「何が嫉妬深いよ」
「俺もやけどなまえかて、大概やろ?間違ってないで」

ドヤと笑う侑をすこし度つけばいたいわぁとけらけら笑われた。

ドレスコードも何もない同窓会がゆえ私服で来ていてよかった。ドレスだったら大変だったと思いつつ侑が風呂から出るのを待つ。つもりだったがお酒のせいか瞼が落ち、私は眠りかけていた。

「なまえー、でたで?なまえ?……ねとんかい」


いつもだったら起きてると反応できるが今日は疲れとアルコールのせいか返事をする気力がない。

「相変わらずおねむが早いなぁ。ぐっすりやないかい」

一人で喋り続ける侑は先ほどと同じように私の頭を優しく撫で続けてくれる。

「やーっとお前の中学同級生に俺のやいえたわ。あとは大学かー。なかなかそっちはいけんからなぁ。サークルも入っとらんみたいやし」

当たり前だ。そんなことしてるならバイト詰めるし侑に会いたいんだから。

「もっと本当は自慢したいねん。俺のや言うて。でもまだなまえあかんていうからまだ待ってるで。おやすみ、なまえ。好きやで。」

小さなリップ音が私の耳元でなり思わず目を開けかける。愛しいとめいいっぱい伝える優しい愛の声。

明日の朝起きた時にきっと少しだけ、いつもより好きだよと伝えようかな、もう少し嫉妬を表に出してみようかな。きっといまの侑なら受け止めてくれるなと思いつつそのまま侑の腕の中に入り込んで私たちは次の日のチェックアウトギリギリの時間までぐっすり眠ったのである。

***


「侑、 」「なん?」
「私も侑の事自慢したいし、私が1番好きって言いたい」


はぁ!?き、いて!?っと大慌てな侑を横目に再び兵庫に戻るため新幹線の切符の購入口まで走るのである。


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