内緒で会いに行くよ

*名前の変換がありません


ピコン
「あ、当落メールきた」
「え?」
「あ、わーい。8月の試合チケットアリーナエンドとれたー。流石にプレミアムシートはダメだったかぁ」

淡々と言葉を発していけば細い目を見開いて私を見る。
それをうっすら見つつ、メールを確認していく。1枚しか取らなかったからクレジット決済にしたし、支払いも終わっているので安心である

「ちょっとまってそれ俺チケットいるか聞いたよね」
「そうだよ」
「俺断られたよね?」
「だって自分で取りたかったもん」
「えぇ……」

席も確認して満足してテーブルに置いてあるコップを手に取り少し開けた窓から入り込むまだ少し寒い春の風が私たちを横切る。暖かい紅茶を入れて正解だった。

「角名に内緒にしとこうと思って今日まで」
「いや、いいけど」
「一人で行くから安心してよ」
「ちょっと安心の概念がわかんない」

少し頭を抱えてハァ、とため息をつく。
本当は当日まで内緒にしようと思っていたがGWで東京に来てくれた角名は最初から最後まで私の家でただのんびりするという選択をしたが故にここで私がチケットの申し込みをしていることを知られてしまった。
悪いことをしたわけではないので何も言わないが。

「当日、帰りは俺のこと待ってて」
「ファンのお見送りとかあるでしょ。」
「それが来る前にそっこーでるよ」

というよりそれお見送りじゃなくて出待ちな。と言いそのあと不貞腐れた顔をしてブツブツと何か文句を呟く角名はいよいよ諦めたようで倒れ込むように私の太腿の上に頭を乗せた

「どしたの」
「んー、なんとなく」

やはり遠距離だと会える時間も話す時間も少なくて一緒にいる時間は何処となく距離が近くなる気がする。
些細なことで喧嘩もするし泣いたりもするけどその度に角名は東京まで来て抱きしめてくれる。

「メンバー見たよすごく濃いね。」
「侑もいるし、日向もいるしね。」
「あの人いたね、アルゼンチンの」
「セッターのね」
「そうそう、あの人宮さんと絶対喧嘩しそう」
「あぁ、ちょっとわかる。なんかあったらインスタ載せる」
「そんなの笑っちゃう」
「あの人もいたね、佐久早君」
「その話したら俺また拗ねるよ」

ブスッとして体制ごと横をむいてムッとするのは過去一度BJの試合を見た時佐久早君のことをあの人かっこいいねと迂闊にも声に出しあまつさえ推せるなぁなんて言ってしまったからである。あの時の喧嘩は過去1角名が大荒れで宥めるのに私が有休をつかい会いに行くほどであった。

「佐久早君は確かにかっこいいけど」
「ねぇ」
「でも一番は倫太郎だってあの時も伝えたでしょ。いまもだよ。」

そう伝えて頭を撫でながら少し冷めてきた紅茶を飲む。ちょうどよくぬるくなった紅茶は程よく体を温めてくれてちょうどいい。
コップをテーブルに置いて角名を見れば私の方をみていて置いたことを確認するとお腹に抱きついてきた。

「今日はあまえたなの?」
「そーだよ。GW終わったらまたしばらく会えないんだから」
「そうだね、さびしい」
「……早くこっちきなよ」
「都内の生活楽なんだもん」
「変わんないし、それに俺もいる」
「それは魅力的だなぁ」

ゆっくりと流れるこの時間が毎日続くことが私の夢であるとこの人が知ったらどう思ってくれるのだろうか、きっと笑いながら抱きしめてくれるし、じゃあおいでと言ってくれるはずである。

「夏が終わって、落ち着いたら、海に行こうよ」
「海?」
「きっと一番の幸せあげる自信あるから」
「素敵な予測だけど察しちゃった」
「うん。だから仕事辞める準備しといて」
「わかった。楽しみしてるね」

プロポーズはサプライズが多いと思っていたが事前告知を取られるとは思っていなかった。
でもなんとなく私はこれから死ぬまでをきっとこの人と添い遂げると少し思っていたので驚くことより幸せと安堵が大きい。

「角名、そこで寝たら寝違えるよ」
「正座崩してくれたら、ならない」
「私も眠い」
「じゃあ布団行こ」

そう言うとすくっと立ち上がり私の手を引いて私のベッドにぎしっとスプリングがなり、倒れ込む。
布団に倒れ込んだ角名は本当に眠そうである。

「夏、絶対勝ってね」
「…当たりまえ」
「もう眠い?」
「…うん」
「おやすみ、倫太郎」
「ん…」

そのまま目を閉じて寝てしまった角名は私をどうやら抱き枕かなにかと思っているようでぎゅっと抱きしめられた。
この穏やかな1日が年内には穏やかな毎日に変わるのはどうやらもう少しのようだ。


今年の夏は私にとってとても思い出深くてしあわせな夏になる。そんな予感がした。
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