ヴァンパイアキス

ギラギラと主張する、その耳はいい意味でも悪い意味でも人々の目を惹く。

「みょうじ、お前またピアス増やしたな?」
「えー!なんでわかったん!?どこ増やしたと思う?」
「お前…首やろ…なんやそれ」
「えー!先生正解やーん!かわええやろ!ヴァンパイア!」
「そないな恐ろしいところにつけるやない!はずせや!」

必ず定期的にある身だしなみチェックで見られるその光景はいつにも増してヒートアップしている。

みょうじなまえさん。

別に素行不良という話は聞かないが、半分ターコイズブルーの髪色や、耳のピアス…これからは首にまで増えたわけだけれども、そういう点を見るとそこら辺にいるギャルと変わらない。
いくら校則が緩い学校といえど、みなこの時間だけは制服をちゃんときて不貞腐れながらもそれをくぐり抜けている。

「ほんま、今回もすごいな、アレ」
「なんや侑、お前の頭も変わらんやろ」
「いや、おれはあないピアスで耳埋まっとらんやろ」
「かわええやろ。今度はどこあけるか悩んどんねん。宮くんはどう思う?」
「急に出てくんなや!」

ひどいなぁ。と呑気に答える彼女は先生たちの猛追からのがれ、片手に持つ紙をみるに反省文を書くようだった。

「みやんずやって私と変わらん頭しとるやんか」
「お前んは、頭いうより、その耳とかやろ」
「あれ、さっきのはなしきいとったん?」
「まぁ、あんだけ先生と騒いどったら聞こえると思うで」
「えー、銀島くんも聞いとったん?はずー」

そういうとケタケタとわらう。
学年で有名な子。確かグループの女子たちも似たような子たちの集まりだった。
自分達目の前にみやんずは観賞用やな!と笑っていたのを記憶している。彼女たちが試合に来てもアランくんや赤木さんたちに手を振っていたのを見たこともあった。

「じゃあ、またな。私これ書かなあかんねん」
「せやろなぁ、気張りや。」
「ありがとぉ、次の試合は銀島くん応援するわぁ」
「はは、ほんまかありがとな」
「俺は!?」
「いっぱい応援されとるやん強欲やなぁ」
「いや、そういうんじゃなくて」
「しゃあないな、宮くんも応援したろ!」

にっこりと俺に向かって笑顔を見せた彼女の顔に思わずどきりとした。そしてその口からはシルバーの牙が見えた。
思わずその牙を凝視していれば奥から彼女の友人が彼女を呼んでおり、そちらに向かってかけて行った。

「おい、銀、いまみょうじさんに牙」
「あったな」

後日、どうしても気になり彼女の元をお尋ねれば口の中にある牙をスクランパーと言って紹介してくれた上に首元に目をやれば先日先生に言われていた部分に刺さっていたはずのピアスはなくなっていて二つの牙に刺された後のような痕に驚愕した。

「これな、ヴァンパイアキスっていうねん。わたしこれやりたくてな、ヴァンパイアあけてん。」


可愛いやろ。


なんて言ってわらって見えたぎらりと光るその牙に首元を刺されて血を吸われたのではないかと思うくらいに自分が熱くなってしまったことは俺だけが知る秘密である。


×