データフォルダ

時計の針は正午を周り太陽もてっぺんにたどり着いた。そんな晴れ晴れとした昼下がり。
部屋の中でのんびり横になっていれば気づけば彼女はベッドの上ですやすやと息を立てて寝ていた。

「平和やなぁ」

この言葉ただ一言につきる。
たまたま被った休日、デートをしようとなまえに発案すれば、首を横に振られお家でゆっくりしようと発案された。
前日の夜、自身の部屋になまえを招き話していたら気づけば午前2時。うとうととし始めた彼女を抱きかかえ、少し酒に酔った回らない口で一言、『なんや、私お姫様みたいやわぁ』なんていわれたのだ。その時の笑顔が可愛くて、毎日こんなふうになればいいのにと切々と思ってしまったのだ。

「にしても、よう寝とるなぁ」

頬をつついてもテレビを見ていてもなかなか起きない彼女は自身の布団に潜り込み気持ちよさそうに寝ている。
カシャっとiPhoneのカメラ音を鳴らして彼女の写真をケータイに収める。
高校の時のガラケーから、スマートフォンになり画質もよくなり、写真の中のなまえもどんどん大人びていく。
学生の頃の子どもらしい笑顔は今では大人びて優しい顔をするようになった。でも変わらない寝顔は今も昔も少し幼い。

「写真撮っても起きんのは昔からやな。ほれー、そろそろ起きんと。お昼回ってまうで。」
「んん……あと1時間……」
「あと1時間もしたらお昼すぎておやつの時間やで、さっさと起きぃ。」

むにゃむにゃといまだ夢の中で幸せそうな顔をするなまえを起こすのは少し忍びなくてもうすこしええか。と思い再びケータイの彼女のフォルダに目を向ける。
流石に会う度とっていれば枚数は100をざらに超えていて、これからも個々のフォルダは増えてくんやろな。なんて思ったりもする。

「こんな風に毎日やっぱ過ごせたら幸せやろなぁ」
「どうしたん?侑」
「あ、起きたん?」
「うん、おはよぉ」
「はい、おはようさん。ほら、布団から出てきい」
「えー、いややぁ。ここ侑ん匂いして落ち着くんやもん」
「そないな爆弾突然落とさんでくれますかァ??」


布団から少し顔をだして、ふふふっと笑う彼女は今度は高校の時と変わらぬ少し子供の顔で、こいつはどんだけいろんな顔ができんねん。と心の中で思わずツッコミを入れてしまう。
腹いせにずっと本人目の前にはとっていなかった写真をあえてわざととってやれば慌てて布団から飛び出てくる

「カシャ!じゃないんやけど!なにとっとるん?!」
「何言うとんねん。ずっと前からあるでぇ?」
「ぎゃー!なんそれ!聞いとらん!侑そのケータイ!貸して!恥ずかしいのあるやろ!」
「恥ずかしいもんなんてあらへんよー?俺しか見とらんしな!それにこれは俺んやし、かしませーん。」


俺の愛しい人がたくさん詰まったケータイ。
これはこの先もずっと俺の宝物。
このご時世なのでしっかりデータのバックアップもしてもしケータイが無くなっても大丈夫なように。
仕事で辛くても、練習でミスがあっても、試合でボロ負けしても、
この写真となまえがおればなんとでもなってしまうんやろな。なんておもいつつ、自分のケータイを天井の高いところまで上げ、彼女の手に届かぬよう遠ざける。

これからも増えていくであろうそのフォルダをひっそり彼女に内緒で増やしていくために。
そして未来の自分と彼女が笑いながらこのケータイを見ながら話ができるように。



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