運命の人

七夕、年に一度の7/7の季節行事。
なんでも奈良時代に中国から日本に伝わってきたらしい。
この座のベガが織姫様、わし座のアルタイルが彦星様であって2人とも働き者だったが結婚生活が楽しくて仕事をサボり、みかねた天帝が2人を引き裂き、年に一度7/7に会うことを許し、カササギが天の川に橋をかけてくれるのだという。


「そんなに好きだったならサボりません。って誠意を見せて働けばよかったのに」
「それをいうたら話進まんやろ。」
「まぁね」

治と2人、ベランダから空を見上げて雲がかからない夜空を見上げる。
小さかった頃は短冊にお願い事を書いて祈ることを願っていた気がする。
何を願ったかなんてもう覚えていないが、ひとつだけ幼稚園の頃に運命の人と結婚できますように。なんてませたことを書いて家までその短冊を持ち帰ったっけと思い出す。


「なに思い出に耽っとるん?」
「小さい頃の懐かしいおませな私の思い出」
「なんやねんそれ」

あの短冊はあのあとお母さんに見つかって、いつか見つかるといいわね。なんて言われたような言われてないような。他はなんて祈っただろうか、小学校くらいまでは短冊を書くのが行事であった気がする。

「なんてかいたん?」
「知りたい?」
「疑問視で返すなや。」

コツンと頭を叩かれてわざと大袈裟に痛ーい。なんて言えば嘘こけ。と笑われる。

「幼稚園の頃にさ、運命の人と結婚できますように。って短冊に書いたことがあってさ。」
「ずいぶんませとるな」
「そうなの。笑っちゃう。でも、織姫と彦星は運命だったんだろう!って勝手に思って、当時どこかにいる私の運命の人に思いを馳せた訳ですよ、」
「可愛いらしいな」
「でしょう?」


もし、本当に運命の人がいるなら、私はその赤い糸を辿ってどんなに遠くでも走り回ったのだろう。もしかしたら、待っていたかもしれない。
まぁ、それをとやかく言ったところで世迷言なんて言われることもあるかもしれないけれど、今でもきっと根底にはその想いが強く残っているから今でもあの短冊の願いを思い出すのかもしれない。


「なまえの運命の人は俺やから、引き裂かれることもあらへんし、1人にさすこともないな。安心しい。」
「…」
「なんや、当たり前やろ、お前好きんなった時から俺は運命やって思っとったわ」
「そうなの」
「せやで」


私も治が運命の人だと思っているなんて言ったらドヤ顔で当たり前やろ。なんて言われるのが想像できてしまって、伝えるのは憚られる。
小っ恥ずかしくて、下を向いて少し目だけ横に向ければ愛おしい。と言わんばかりの目でこちらをみ続ける治がいた。


「恥ずかしいからその目やめて」
「…何言うてるん?」


本当に疑問を抱えてこちらをまた見るものだからこれだからこの人は。と改めて思ってしまう。けれどこの人のそういうところも含めて愛おしいと思っている私もなかなか大概なのである。


「私も、治を運命と思ってるよ」
「当たり前やろ、」

2人でふふっと笑って再び目線を綺麗に夜空を走る天の川に向けて指輪がはまっている左手を治の右手と重ねた。



あぁ、私の運命の人はこの人だけなのだ。


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