少しの岩泉への用事のために学校に向かえば体育館から鳴り響くボールが地面を叩きつける音。
あと、岩泉の怒号。
「及川、てめぇ!」
きっと今日も何か及川がまた何かしでかしたのだろう。また岩泉の眉間の皺が増えてしまいそうだとのうのうと考える。
きっと中で及川を岩泉が追いかけているのであろうと思い、体育館の扉をあける。
「ッア!」
「え?」
まずなぜ及川がバケツをもって水を岩泉にかけようとしたのかを聞きたい。
そこをうまく岩泉がよけてそこがまぁ扉の前でタイミングよく私が扉を開けて被ったところである。
「…えっと、ごめんね?」
「ふざけたおせ、クズ」
「なまえちゃん怖い!そもそも岩ちゃんがよけたのが悪くない!?」
「てめぇがそもそもそんなもんかけようと…す……」
「なに?岩泉」
私の方を振り返れば岩泉が押し黙りみるみる顔を赤く染める。
私を見ればまぁ、夏ですのでワイシャツと中にキャミソール。その下は下着な訳でブラは透けてないけどキャミソールがすけている
及川も私をあらためて見るや、あー…とつぶやく
「と、とりあえずタオル持ってくる…」
「あたりまえだわ。及川のせいだからな」
「なまえちゃん辛辣!」
そう言うと及川はそそくさとタオルを取りに走っていった。
岩泉は未だ固まっているがッハとした瞬間にたまたま来ていたジャージを私に渡してきた。
「と、とりあえずいったんこれきとけ」
「え、いいよ。岩泉のぬれるじゃん」
「お前が風邪引くだろ。及川が原因にしたって俺がそこでよけたから被った訳だしな」
すまん。と一言押されて多分引かないであろう岩泉のジャージを受け取る。
心配をしてくれることとたまたま見てしまった首をつたう汗にきゅんとしてしまう。
洗って返すからと言えばいや、俺が部活で使ってるしいいといわれる。
中のワイシャツをどうしようかと考え、及川が新しいシャツ持ってると岩泉に聞いてそれを拝借するのを勝手に決めた。
「わー、やっぱでかいね!まぁ岩泉の身長だしね」
「…あ、おう」
「おまたせー!タオルと一応岩ちゃんの新しいTシャツ!」
「なんでお前が俺の勝手に持ってきてんだよ、クズ川」
「みんな俺の名前は及川だよ!」
「わりぃな、俺のだけど。」
「え?いいよ。岩泉の匂いとか安心するよ」
「ばっ、お前、そういうこと軽々いうな…」
「及川の借りるよりぜんぜんいいよ」
「なまえちゃんそういうこと言わないでくださいー」
「着替えたいんだけど、どっかある?」
「ロッカーでいいだろ、連れてく」
「いってらっしゃーい」
タオルと岩泉のTシャツを持ってロッカールームへと向かう。なぜなら保健室や教室に行くより距離が近いかららしい。トイレとかでいいんだよ。と連れていってくれる岩泉には言えず、夏の蒸し暑い道を二人で無音で歩く。
「わりぃな、」
「え?いいよ別に全責任は及川だし」
「なんか用事あったんだろ?それ及川か」
「いや、岩泉だけど」
「は?」
「いやだから、岩泉に。これ持ってきた。それに及川だったらさっき渡してる。」
はい、と昨日の夜仕込んだレモンの蜂蜜漬けを渡す。何回も練習して家族のお墨付きをもらって今日になったのだ。味とか見た目は悪くないはず。
わりぃ、さんきゅ。といってくれた。
「ここな。俺のとこ使っていいから」
「岩泉のロッカーどこ。」
「あー、こっちだ」
大所帯の青葉城西のバレー部のロッカーに入るのは流石にはじめてで、場所を問うと岩泉は自分のロッカーまで連れていってくれた。
「ありがと、すぐ着替える。」
「いやいい。俺は外で待ってるわ」
わかった、ありがとうと返事をしようとした時ガチャっと扉があいた。
「あっちー」「お疲れ様でーす」
「あれ、だれもいねぇのか。電気ついてんのに」
「い、岩泉…」
「しゃべんな、1年だからこっちにはこねぇ」
咄嗟の判断だろう。たまたま岩泉のロッカーが部屋の端っこさらには角だったという場所の良さもあったが急に抱き止められる私の身になってほしい。
平均身長より少し小さい私にはちょうど首下ところに顔が言ってしまい、すっぽり隠れてはいるだろうがついつい見入ってしまう。
じわりと外から感じる暑さで首をつたう汗だとか、喉仏だとか。
あと、早い心臓とその音、だとか。
少しすると再びガチャっと音がなり扉が閉まる音がした。
どうやら忘れ物をしたようだった。
「行ったか…」
「い、岩泉、あの」
「わ、わりぃ」
きっと真っ赤になった顔。自分の心臓が速くなってることもとてもうるさいのもわかっている。
「い、今のは岩泉が悪い。」
「わ、悪い」
止まらない心臓がやはりうるさい。
岩泉にもさっき聞こえていたであろう。
外で待ってる。といわれ、今度は岩泉が外に出る。
扉が閉まる音がした瞬間ぐっとそのまましゃがみ込む。
「これ、本当に岩泉のシャツ着れんの私………」
まだ誰にも口にしてない恋心がうるさく誇張している。
しかし、外に待たせる岩泉に時間を割かせるのはとても申し訳なく、意を決して着替え始めた。
「い、岩泉?扉あけるよ?」
「お、おう。」
この短時間で何度ここの扉が開く音を聞いただろうか。
もう当分はここの扉の音は聞きたくないなと思いつつ、とびらを開けて体育館に向かう。
「ところでこれなんだ?」
「檸檬の砂糖漬け、暑いし、さっぱりするのがいいかなって」
「おぉ、すげぇな。後で食うわ」
「是非にも」
ロッカー内にいる時とは打って変わって落ち着いた様子の岩泉をみるとやはり気になんてしてないか、と思ってしまう。
もうすぐ体育館につく、と言うところで岩泉が立ち止まる。
なにかと思い振り返ると顔を赤くして立ち止まっている。
「え、岩泉大丈夫!?なんかあった!?」
「なんもねぇ。ねぇけど」
「え、絶対あるじゃん、及川呼ぶ?水?」
「さっきの、アレ。絶対他のやつに見せんな。」
え?っと声に出して近づけばもう一度抱き止められる。
「あと、うなじとかもできるだけ見せんな。」
「え、そんなみえる?いやでも、暑いからそれは無理…」
「ずっと見えてる、努力しろ。さっきの急に悪いと思ってるが行為に悪いとは思ってねぇ」
「岩泉?」
「わざわざ来んのにも期待する。」
真剣な顔にきゅんとする。
いつも真面目な人だから、ちゃんと考えていってくれてるんだろうなと頭の端っこで考えて私だってこんなとこ言われたら期待してしまう。
「今度来る時は連絡しろ」
「…わかった」
「帰り、送る。」
「ねぇ、岩泉、」
「なんだ」
「私だって、期待する、じゃん」
そういって岩泉のシャツの裾を掴めば少し驚いた顔をしてフッと笑った。
「おう、期待しとけ」
それはもうかっこよく言うものだからその日バレー部の練習が終わるまで岩泉のことをまって帰り道にはめでたく友人から恋人にランクアップした。