夏の捕食者

※致してはいません。




夏の日差しが照りつく暑い日。
前日の夜、宿題を教えろと飛雄に呼ばれて、彼の家に向かえばリビングで暑いと言ってうなだれていた。

「いや、呼び出しといてそれはどうなの?」
「うるせぇ。」
「で、なんでリビング?」
「エアコン壊れた」
「可哀想。」

純粋な感想である。頼まれて買ってきたアイス食べつつ飛雄の母親が帰ってくるまでに宿題を終わらせるのが目標だったがテーブルの上に並ぶ問題集の量を見るとそれは叶わぬ願いだと想像が容易い。

「飛雄、何からはじめる?」
「なんもしたくねぇ。」
「しろよ、学生」
「テメェもだ」

まぁ、それが正論である。自身も学生だが、何せその宿題たちもうほとんどを終えているのだ。
後、2つ。英語の問題集といわゆる一言日記のみ。一言日記は残りの夏休みも書くとして、苦手な英語を進めたとは言え、後回しにしたため今日中に終わらせたい。飛雄に教えるついでならきっと進められると思っての選びである。

「さ、飛雄、お母さん帰ってきたらここ使うんでしょ?涼しいうちに何個か進めなよ。」
「めんどくせぇ」
「また、今度遠征?あるんでしょ?いけないよ」

そういえば渋った顔をしたのちにひとつ目の難関である数学に飛雄は手を出し、それを横目に私も英語の問題集に手を出し進め始める。
最初のうちはいいのだ。集中力があるからきっともっていく20分くらいだろう、それまでに残りの18ページを終わらせなければ、そう思いより集中して手を動かす。

「あれ、なまえちゃん。いらっしゃい」
「こんにちは、お邪魔しております。」
「また、飛雄の宿題の面倒見てくれてるの?」
「ちげぇ」
「違うことあるか。おばさんリビング使いますよね。飛雄の部屋行きます。」

あら、いいのに!という飛雄のお母さんの声を聞きながら荷物と飛雄を掴んで部屋に向かう。
後ろを少し見れば、すごく嫌そうな顔をしている飛雄。仕方ないでしょうが。きっとご飯の準備するんだから。

「うわー、ムシムシしてる」
「言っただろうが。エアコン壊れた」
「いや聞いたけど」

カチッと扇風機に電源を入れて、コップにたくさんの氷を入れたお茶をのむ。湿度が上がった部屋の中ではこれが極上であるのだ。
きっとコップに入ったこのお茶もすぐになくなってしまうのだろう。
お茶をのんでひと段落をついてさらには宿題を進める。
私は気付けばもう後1ページ終了すれば無事全てが終わるところまで来た。
飛雄はといえば途中途中で立ち止まるもようやっと1教科目が終わる模様。
後何教科か。それを数えると今日の飛雄には怒られるだろう。
相変わらず扇風機1台では流石に暑い室内、首筋に伝う汗。
飛雄に目をやれば少し熱った顔に思わず照れてしまう。

「あ、おわった?丁度よかったわ。はい、これ良ければ。飛雄、お母さんちょっと買い忘れあるから出てくるからね。」

まるでタイミングを見計らったように扉をノックされ、ふと我に帰り、返事をしようとするともなまえちゃん、ごゆっくりね。とそう言って再び出かけた飛雄のお母さんをいってらっしゃい。と2人で見送り、飛雄にリビングにもどるかときこうとすれば腕を掴まれ、立ち上がり、そのままベッドへ。

「っえ」
「悪りぃとはおもってねぇ。」
「思って欲しいな。それは。」

どっどっと響く自身の心臓の音が耳に聞こえる。うるさい心臓。お願い黙って。
お互いの心臓の音が響きそうな距離。目の前には飛雄の顔と部屋の天井。ムアっとした空気が張り詰める室内、こうなることが飛雄の作戦だったのではないかと思うと腹立たしいが、彼はそんな器用なことは決してできない。
そういうお馬鹿さんなのだ。

「すけべ」
「うるせぇ」

薄着して俺の家きたなまえが悪い。
そう言って、私を見るそのギラつく目にすこし見とれてぼーっとしていればあっという間に捕食されるのだ。

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